2007年05月27日

恭×フェイ7 by kagura

 えっと……一口大に、っと

「ね、ねぇ…フェイト?」

 ん……うわっ!?

「あ、アルフっ、大丈夫!?」「目が痛い……」「で、でも…身体に悪いわけじゃないから…」
「うぅ〜…目がショボショボするぅ……」

 え、えっと…どうしたら良いのかな?

「が、我慢できそうに無い…?」「うぅ…ちょっと目を洗わせて」「う、うん……」

 だ、大丈夫かな…?
 でも、兎に角、私は自分の仕事を――ジャガイモとニンジンの皮を剥いて……
 うぅ…包丁って使い辛い……

「タマネギ――もう切りたくないよー」「ほ、ほら、一緒に頑張ろ…ね?」「うぅ…」

 そんなに痛いんだ、タマネギ。
 本には書いてあったけど、アルフがあれだけ嫌がるなんて……鼻が利くから余計に辛いのかも

「ほら、少しくらい大きく切っても大丈夫だから」「本当っ?」

 うわ、生き返った

「よしっ、頑張るよっ」「うん。頑張ろう…」

 現金だなぁ…っと。包丁を使ってる時は手元を見ないと
 よっ―――っ、神経を使うなぁ、料理って…慣れたらそんなにないのかな?

「終了っ、次は肉を一口大にするよ?」「うん、お願い」「気を付けてね?」「うん…」

 お願い、今は話しかけないで………







 うぅ……沢山指切った…
 まぁ、でも

「後は煮込むだけ…」「はぁ、やっとか…」

 今日の晩御飯は私とアルフ、二人で作ったカレーだ。
 ここ一ヶ月、お母さんに包丁と火の使い方を教わり……長かったなぁ。

「料理って大変だね、アルフ」「まったくだ…アタシは食べる側が性に合ってる」

 もう…

「ダメだよ、そんなんじゃ」「得手不得手ってヤツ。こういうのはフェイトの得意分野にして?」

 首を横に振って

「ダメ。また一緒に作ろ?」「まぁ…一緒に作る分には良っか」「ありがと」

 はぁ…

「楽しかったね?」「うん…次は御菓子とか作りたいね?」「ああ、それ良いね」

 サクサクのクッキーとか、パンとか焼いてみたいなぁ…

「後は煮込むだけ?」「うん…えっと、弱火で30分」「うわ、長っ!?」

 そうかなぁ?

「もう食べれるけど、煮込んだ方が美味しくなるって」「はぁ。じゃぁ我慢しないとね…」

 ふふっ。アルフ、そんなにお腹空いたのかな?

「初めて作った料理だからね、出来るだけ美味しく食べないと」「そうだね…」

 本当、そうだね…

「どうするフェイト?アタシが見てよっか?」「ううん、一緒に見てよ」

 やっぱり、最後まで自分でしていたいよね?







「どうかな、クロノ?」

 その日の晩御飯はカレーとサラダ。
 サラダはあの後お母さんと一緒に作ったポテトサラダだ。
 やっぱり、お母さんは色々料理知ってて凄い。今度、お菓子の作り方を教えてもらおう。

「む……最初は僕か?」「良いから、早くっ」「アルフ、急かしちゃダメよ?」

 はーい、と空返事をするアルフ…がお母さんは今日は咎めない。
 私も気にする余裕は無い。
 味―――どうかな?

「では、いただきます」「「――――」」「ふふっ」

 うぅ―――

「うん。美味い――初めてには思えないぞ」「よ、良かった…」「ふぅ……」

 はぁ――緊張した…

「まぁ、個人的には、もう少し辛いのが僕は好きだが…」

「その辺りは個人の嗜好だから――うん、良く出来てるわフェイト、アルフ」

「ありがとう、お母さん」「良かったねぇ、フェイト」「うん……」

 本当に良かった

「それじゃ、皆でいただきましょうか?」「はい」「うん」

 沢山料理を覚えないとね。
 沢山料理を作ってあげれるように―――

「「いただきます」」

 次は何を教えてもらおうかな……







 数日後
 アースラの廊下で、大量の書類と荷物を運んでいるはやてを見付けた
 ……と言うか、何だあの量は?

「は、はやて?」「ん?……あ、フェイトちゃん」

 えっと……

「ああ、この書類?」「うん…どうしたの?」「ヴォルケンリッターの任務報告書と始末書や」
「報告書…?」「そ。一応、直属の上司はうちになってるからな、一回目を通さなアカンのよ」

 そうなんだ…

「ま、ウチがどうこうせぇへんでも、クロノくんがちゃんと見てくれるんやけどね」

「…今週中?」

「いんや、今月中…でも今日からまた任務でヴィータとザフィーラ出てるから、
早よ見んと減る前に増える……」

「それは、また……」

 でも、ヴォルケンリッターの任務達成率を考えると、どうしても仕事を回してしまうのは判る。
 任務達成率は8割強。そのほとんどは現地の人達―――依頼型の任務での依頼主との衝突(苦情)だけ。
 依頼内容の達成だけなら9割弱を誇るアースラトップの戦闘集団だ。
 特にシグナムの達成率は管理局内でもかなりの上位に入っている

「ま、ウチはこう言う事務仕事も結構嫌いじゃないから、頑張れるわ」「そっか」

 だったら良かった。

「読んで判子押すだけやし…ヴィータのは書き直し多いけど」「そうなんだ…」
「どうしてあの子は、面倒臭がって恭也さんを見本にするかなー…」「そ、そう…」

 大変そうだけど、色々楽しそうで良かった…

「そういや、フェイトちゃんも最近、事務の仕事クロノくんから回してもらってるんやてね?」
「?うん。良く知ってたね…」「色々噂になってるで、ハラオウン家のアースラ乗っ取り計画とか」

 なんだそれは?

「えっと…」「まぁ、冗談半分で広まってるみたいやけど…どしたの?」「ん?」
「うちみたいに必要に迫られた訳でもないやろ?だから気になってな…」「ああ…」

 そう言う事か。
 そう、大した理由じゃないんだけどな…

「えっと…必要になるかもしれない、からかな?」「曖昧やなぁ」

 うん。自分でもそう思う…

「あ――恭也さんっ」「え―――」

 トクンと、静かにココロが鳴った―――?

「む、はやて嬢にフェイト嬢か……むぅ、凄い量の書類の束だな…」
「そか?少し多いけど、いつもこんなもんやで?」「俺には理解できない世界だ…」
「…ふふっ、恭也さんらしいですね」「やはり、身体を動かすのが一番だ」

 そう言って肩を竦める恭也さんと、苦笑する私達。
 うん、落ち着いてる――変なの。
 自分の胸に手を当ててみるが、特に変化はない……

「ん?どうかしたかフェイト嬢?」「いえ、特には…」

 うん。本当になんとも…無いよね……?

「所で、恭也さんはどしたん?」「俺もコレだ」

 あ、報告書―――始末書か?

「先日任務先でなぁ……」「うわ、遠い目や」

 な、何があったんだろう……

「思い出したくもない失敗だった…あれは予想出来なかった」
「戻っといでー」「喰われそうになったから仕留めたら、そいつは現地の神の使いと言うオチか…」

 うわぁ……

「そう言う情報は、事前に調べておいてください…」

 まったく

「そうは言うがなぁ…」「この前、ヴィータも似た失敗してたで?」「嬢と同レベルか…」

 それはそれでショックだったらしく、余計落ち込んでるし…

「元気出さんとあかんで?笑顔笑顔」「…それは俺のキャラじゃないだろう?」「ふふっ」

 凄いなぁ、はやては。
 話していると皆笑顔になる。
 私は―――そう言うのは、ちょっと苦手だ。羨ましいな…

「それじゃ、今から隊長に絞られてくる」「がんばってなー」「気を付けて」

 羨ましい―――?

「それじゃ、うちも行くわ。またなフェイトちゃん」「ん。またね、はやて」

 変なの……







 さて……と。今日のノルマを達成しようと訓練室へ。
 恭也さんは忙しそうだったから、シグナムかなのはは居ないかな――

「あら、フェイトちゃん」「あ、シャマル」

 えっと…

「ああ、シグナム?」「ん…珍しいね。訓練?」「えっと、そんな所。シグナムなら今日は休みよ?」

 あれ?

「あ、そうなんだ…?」「ええ。今日はなのはちゃんもお休みみたいだし、寂しいわね」「ん……」

 どうしようかな…まぁ、今日は一人でやろう……

「ふぅ……」

 良く考えたら、最近はいつも誰かと訓練してたんだよね。
 ……昔からは考えられないな

「今日は、恭也さんとはしないの?」「…お仕事、忙しそうだったから」「ふぅん……」

 ?何だろうか……?

「えっと……」「ああ、気にしないで……最近、面白い事聞いたから少し考えてたの」

 いや、そんなに見られると気になるんだけど…
 まぁ良いか。

「フェイトちゃん、最近好きな人出来た?」「え……ぁえっ!?」「あ、変な声」

 いきなり何を……

「ほら、こういう話って女の子好きなのよ」「女の子……?」「フェイトちゃんまでっ!?」

 あ、ゴメン…つい

「ううん。別に出来てない…と思うけど」「そうなんだ…」「凄く残念そうだね…」

 まだ、そんな事考える余裕無いから…

「本当に居ない?」「居ない。シャマルこそ、良い人居ないの?」

 今日は簡単な運動だけで済ませようかな…

「居ますよ?」「そう……」

 うん、そうしよう。
 今日は恭也さんも時間無いだろうし、今の内に溜まってる事務仕事終わらせておこう。

「恭也さん」「えっ!?」「冗談ですけどね」「―――そ、そう」

 いきなり、変な事を…

「こう言う事を冗談で済ませられる人って、恭也さんだけなんですよね」「そ、そうかな…?」

 そういうものなのかな……

「フェイトちゃんは恭也さんのこと嫌い?」「え?」

 えっと、私の事は関係無いよね……?

「あ、嫌いなんだ」「ち、違っ――嫌いじゃない、けど」

 うん。嫌いじゃ、ない。
 うん。私は恭也さんを嫌いじゃない――

「じゃ――「む、居たかシャマル」―――シグナム」「あれ?シグナム、今日は休みじゃなかったの?」

 あれ?

「ん?いや先程か「ちょっとこっちに来なさい、シグナム」な、なんだシャマル?お前、こんなに力強かったのかっ?」
「いいから来るっ!!」

 何だったんだろう?
 良く判らないが、シャマル――さっきのは嘘?

「はぁ……」

 何が何やら――

「今日は軽くで済まそう…」

 軽く柔軟体操をしながら先ほどの事を考えてしまう。
 別に、そんなに大したことじゃない。だから深く考える必要は無い。
 だってそうじゃないか。
 あの人は嫌いじゃない――それが答えだ。
 なら、何だと言うのか?「嫌いじゃない」なら、答えは一つしかない―――のか?

「嫌いじゃ、ないなら――」

 私は――私の中では、あの人はどう言う位置に居るんだろう?
 変な人、不思議な人、高町恭也とはまったく違う人、高町恭也と同じ顔をした人。
 ……一年以上前の冬の夜に出逢った、もう一人のなのはの兄。
 デタラメなデバイスを持ち、デタラメな身体能力を持つ――デタラメな魔導師。
 私の中のたった一人の“不破”恭也。

「そこまで考えなくていい」

 そう。必要なのは一つだけ――私はあの人を嫌いじゃない。
 なら、私はあの人を―――

「テスタロッサ?」「―――っ!?シグ、ナム?」「そんなに驚くことも無いだろう…どうだ、一勝負」
「あ―――うん。そうだね」

 その思考は、今はまだ必要ない。
 嫌いじゃない。それだけで、私は十分満足しているの―――

「ありがとう、シグナム」「??」

 最近の私は変だ。でもそれは、どこか心地の良いもの
 でも、だからこそ……これ以上、私を変にしないで。
 私は――今のままで十分なの――

「シグナム、シャマルは?」「主に呼ばれていてな、急いでいったが…何か用でも?」「ううん」

 さぁ、思考を切り替えよう。







 シグナムに二戦二敗した私は、食堂で冷たい紅茶を片手に『月刊 盆栽の友』を読んでいた。
 でも、文章は何一つ頭に入らないし、先程の訓練の内容も頭には残って居ない。

「はぁ……」

 先程から溜息が止まらない。
 美味しい筈の紅茶に何も感じないし、落ち着ける筈の本を読んでも落ち着けない――
 いや、ある意味では落ち着いているのだろう……
 思考の中心にあるのは一つだけ。ただソレのみを考え続けている。

「何なの――?」

 “あの人”は、私の何?
 そんなの決まってる。戦友――それでダメなら親友の兄だ。
 なのに何故、私は“あの人”をその“位置”に置く事を良しとしないのか―――
 何故―――この思考が頭から離れないのか―――

「何で―――」

 それ以外を考える事が出来ないのか……。
 これは、ダメだ。いけない。
 これ以外を考えないといけない――私は“イマ”に満足している。
 これ以上を望んではいけない――十二分に幸せなのだ。

「――フェイト嬢?」「―――――っ!?」

 心臓が弾けたと――本気で思った。

「どうした…悩み事か?」「い、いえ……その」

 恭也、さん

「隣、失礼するぞ?」「あ、はい――あ、いえ、その…どうぞ」「??」

 ぁ――ぅ―――

「どうした、元気が無いようだが?」「そ、そうですか…?」

 元気が無いわけではないのです

「少し考え事を――」「そうか……晩御飯はどうする?食べれそうか?」

 そう言って、持ってきていたごはんとお魚――和食のセットを二つ、私と自分の前に置く。
 ―――ん?

「あ――れ?」「む、どうした?」「もうこんな時間なんですか…?」

 シグナムとの訓練からもう2時間以上経っている。もう夕食と言うのも少し遅い時間だ。
 ―――そんなに長い時間、あの訳の判らない思考に囚われていたのか―――

「ああ。随分と長い時間、考え事をしていたようだな?」「え……?」

 …その、その言い方は――何かおかしくないですか?
 そんな言い方だと――

「見て、いたんですか…?」「まぁ…5分ほどな」

 ―――――

「先程までははやて嬢が居たが、何を話してたんだ?」「え……?」

 はや、て?

「え…っと。まぁ、色々です」

「そうか?はやて嬢が心配していたからな、体調には気をつけるように、との事だ」

 もしかして、気付いてなかった……んだよね?

「それでも食べて元気を出せ。皆心配していたぞ?」「――――はぃ」

 いったい誰に見られたのだろうか――恥ずかし過ぎる







 二人して言葉少なく、モシャモシャと晩御飯を食べる。
 今気付いたが、随分と食堂にも人が入っている――いったい、私は何をしてるんだろう?
 はぁ……

「食事中に溜息とは、感心しないな」「あ、すいません……」

 うぅ、行儀が悪かったですね…

「どうした?はやて嬢に何か言われたのか?」「いえ……」

 と言うか、はやてが居た事に気付いて無かったですし――
 ――大体、私がこんなにも悩まなければならないのはこの人の所為ではないか?
 この人が私の中に変な居場所を作るから――私が、こんなにも困っているのではないか?
 不思議と、そう思うと何だか元気が出てきた。本当に、不思議なものだ。
 私はこの人の事を考えると、なんと言うか――気力みたいなのが沸いてくる。

「…はやてはもう、帰ったんですか?」「ああ、家に緑と紫が待ってるらしい」

 シャマルとシグナムか――思い出した。
 この変な気持ちの元凶はシャマルだ。
 明日は無理矢理にでも訓練室に連れ込もう。うん、悪くない。

「恭也さんは御飯を食べたら…?」「いや、俺はこれから任務だ」

 ……なんだ、そうなんだ。

「これから一週間――といったところか」「……また、少し長いですね」

 一週間、か……

「今度は土産を買ってこよう。何やらそう言うのが主流の惑星らしいからな」

 へぇ…リゾート地、かな?

「楽しみにしてます」「まぁ、あまり期待はしない方がいい。良く、なのはに怒られたからな」

 いったい何を買って帰ったんですか…。
 そういえば、昔はお父さんに良く連れ回されていたとか……
 やはり、旅好きなんだろうか?

「期待しています…」「む…そうか」「はい。恭也さんがちゃんと選んでくださいね?」
「……善処しよう」「―――はい、恭也さんが選んでください」

 貴方が、私の事を考えて選んでください―――それだけで、十分ですから。
 それ以上も、それ以外も――何も、望みませんから。







 ふぅ――もう、お腹一杯。

「相変わらず、食が細いな」「あまり、そう言う所を見ないで下さい」

 恥ずかしい…

「――元気が出たようだな」「…………っ」
 
 ―――――――っ

「考え事をしている時は、酷く追い詰められた顔をしていたからな――」

「そ、そう……ですか?」

 …別に、そんなに深刻な悩みではないはずだったんです……

「良かった」「は、はぁ…気にしていただいて、ありがとう御座います」

 ズルイ。
 いつもはこんな優しい言葉、掛けないくせに。こんな時に限って―――

「悩み事があるなら、なのはかはやて嬢に相談すると良い。それにアルフにリンディさん…
あまり当てにはならないがシャマルさんも一応は役に立つ――かもしれない」

 どっちですか……

「まぁ、あれだ。一人で悩むとろくな事が無いと言うことだ。
――これでもフェイト嬢より2倍以上生きている
そして、コレだけは断言できる……明日にでも、相談すると良い」

 そうですか…

「ありがとう、御座います」「…俺に相談する時は、肉体労働関係以外は受け付けないからな?」

 判っています。判りましたから――

「ふふっ――心配してくれていたんですね」「妹の友達だからな」「――ありがとう御座います」

 貴方には相談しません――出来ないんです。ごめんなさい。

「あ、晩御飯の御代――」「コレくらいは奢る。一応、年上だからな」「階級は私が上ですけど…」
「男の意地だ」「それなら、しょうがないです」

 こんな――自分でも信じたくない気持ち、誰にも相談なんて…出来るはずが無いじゃないですか。
 この人が心配してくれている――それだけで、泣きそうなくらい嬉しく思っている自分なんて…自分でも信じられない。

「さて、行くか…」「気を付けて下さいね?」「善処しよう」

 そう言って恭也さんは食堂を出て行く。
 私も足早に食堂を後にする――そのまま、家へと帰る







 もう夜も遅い時間。お母さん達はもう寝ていたので、何とか起こさないようにして部屋に戻る。
 ふぅ――自室のベッドに制服のまま仰向けに寝転がる。
 シワになるけど、まぁ良いや…明日の朝は代えの制服を出さないと…

「良かった……」

 一週間、か
 助かった。本当に――
 こんな気持ちのまま明日も顔を合わせたら、それこそどうかなってしまう。
 本当に

「よかった……」

 夜の闇を見ていた視界がぼやける
             鼻の奥が熱い――――

「ごめん、な…さい……」

 その一言で、自分が泣いている事に気付いた
 訳が判らない。泣く必要なんて無い。辛い事なんて何一つ無かった。
 それに―――この“ごめんなさい”は誰に宛てた言葉なのか―――
 服の袖で目元を拭う。乱暴に。少し痛いが、そのおかげで涙が止まる。
 鼻を啜ると、また涙が溢れる。また袖で涙を拭う。今度は反対の袖でだ。
 止まらない。涙が、止まらない。
 辛くもない、悲しくもない、痛くもない。なのに涙が止まらない。

「ごめんなさい―――」

 涙で顔をグチャグチャにして、やっと理解した。
 “恭也さん”が私の中の、どの“位置”に居るのかを。

『――元気が出たようだな』

 その一言だけで十分だったんです。
 “昨日”までは、それだけで私は満たされていたんです――

「ごめん……さ、い」

 嗚咽は大きくなっていく、それでも何とか声を抑えようと右手で口を塞ぐ。
 目元は左の服の袖で覆っている。もう涙で酷い有様だ。
 私は知っている。恭也さんがどう言う境遇なのか。
 そこに――本当の意味での“救い”が無い事も知っている。
 それでも、私は貴方に優しくしたいと思ってしまった
 それでも、私は貴方を救いたいと――護りたいと思ったんです。

「……ありがとう、御座います」

 この言葉だけは途切れさせない――この感謝だけは、忘れない。
 いつも見ていてくれたんですね。いつも気に掛けていてくれたんですね。
 ありがとう御座います、私に優しくしてくれて。
 ありがとう御座います、私を救ってくれて。
 私は貴方のおかげで“自分”を見付ける事が出来ました。
 私は貴方のおかげで“気持ち”の名を知る事が出来ました。
 私は――――

「私は――――」

 ずっと、気付かなかった。気付けなかった。
 初めて会った時からずっと、私は貴方を見ていなかった。
 私にとって貴方は突然現れたなのはの“別人の兄”だったんです。
 一目で判りました。“違う”と。
 でも、あの時から―――私は、貴方に救われていたんですね
 貴方が居たから――私は“私”になれたんですね
 貴方が居たから――この気持ちを手に入れることが出来たんですね

「好きなんです」

 ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。
 この気持ちが迷惑以外の何物でもないと気付いてます。
 私が貴方の枷になってしまうだなんて承知の上です。
 それでも――貴方が好きなんです

「大好きなんです」

 胸が痛いです。苦しいです。
 涙と嗚咽で喉が詰まります。
 こんな苦しい思いをするくらいなら――

「――嫌いに…ならなくて、良かった」

 気付かなければ良かったと何度も思いました。でも、気付けて良かった。

「痛い、です。苦しいです」

 でも、とても心地良いです。

「でも、大好きです」

 ―――これが私の初めての“恋”の始まり
           “恭也さん”の居場所は、私の真ん中に―――
posted by TRASH BOX at 23:04| Comment(21) | TrackBack(2) | 三次創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ようやく自覚できた恋心。
切ないっす
Posted by シヴァやん at 2007年05月27日 23:20
なんと…ここで自覚しましたか
もうちょっと引っ張るのかなあ、と思ってましたけどそれもちょっとフェイトの悩みが続くことになって可哀想だし、頃合だったのでしょうか?

こうして感情を自覚したフェイトがどう動くのか、一人で考えて行動するのか、それとも誰かに相談するのか…相談するとして相手は誰を選ぶのか
続き、楽しみにしてます
Posted by ces at 2007年05月27日 23:21
 7回目にして自覚したようですが…某参謀とか某空気読めない人のせいで、告白までかなりの波乱がありそう…
甘ったるい波乱、楽しみにしてます。w

P.S. アルフ…狼が原型のはずなのにタマネギ平気なのか…?w
Posted by Raziel at 2007年05月27日 23:24
ついに恭也への恋心を自覚したフェイト
この先、彼女がどんな行動に出るのか楽しみでしょうがないです
Posted by たわしX at 2007年05月27日 23:47
自覚、しましたね。うん。
kaguyaさん版フェイトがこれからどんな恋模様を描いていくのかすっげえ楽しみです。
Posted by フィールド at 2007年05月27日 23:53
自分の恋心をようやく理解しでもそれが相手の枷になる事を苦しみ涙しそれでも気付けた事をうれしく思う・・・・・・。
あぁ〜〜もぅ、可愛いらしくて切なくていじらしくてもう、お兄ちゃんお願いしてくれたら何でも言うこと聞いちゃうよ!!!!ってな勢いです(ウマレ

この想いとどうやって向き合っていくのか楽しみです。
Posted by J at 2007年05月28日 00:30
せっ………切ない。

激しく心揺さぶられました。

続きが楽しみです。
Posted by ウェルディ at 2007年05月28日 01:17
これはなんと言う良作。間違いなく癒される。
てーか、最後のフェイトの心情の部分を読みきったところで大きく息を吐きました。
そんで、おもわず「うわああああああ!うわっ!うわぁぁぁぁ」とかわけ分からん声を上げてしまいましたw
もうね、大好きっ!
Posted by たくぞう at 2007年05月28日 01:33
良い。引き込まれます。
純粋な想いと、それにうすうす感づいている周りと。

・・・にしても一度ならず二度までもな紫はほんとにだめな子・・・
Posted by すす at 2007年05月28日 01:45
たまねぎ切るときはコンタクトの類を付けると目に来ないんだぜ?
Posted by at 2007年05月28日 02:00
くはぁ…フェイトがかなり可愛い…癒されます…
Posted by 時計 at 2007年05月28日 02:15
切ない…っ!
涙腺弱いんです…心情を吐露するとこでウルルとキてしまいました;
この後フェイトがどう動くか楽しみです。
Posted by や at 2007年05月28日 07:28
きた……こいつはかなりきましたね……普通に可愛いぜフェイト!そしてフェイトが落ち込めば必ずやってくる恭ちゃん!鈍感、天然、朴念仁、なにを言われようがやるときはやる、仕留めるときは仕留める…すげぇぜ!
Posted by nemuke at 2007年05月28日 08:38
どもっす。おはよう御座いますw
今回も沢山のコメント、ありがとう御座いますヨw

>シヴァやんさん
フェイトって恋愛とは無縁だから、結構情熱的になるかも?

>cesさん
引っ張るか引っ張らないか悩んだんですよねーw
その名残が食堂の一件だったりw

それは次回のお楽しみw

>Razielさん
むしろ、紫の子以外はみんな陰ながら支えててくれてたりw
ヤツは天然さぁ…色んな意味でかき回す光景が浮かぶw

P.S やっちゃった…orz

>たわしXさん
当分はまたモヤモヤして下さいw

>フィールドさん
まぁ、ある意味朴念仁同士の恋愛になるんだろうなぁと
あとkaguyaって誰さ?(笑

>Jさん
ちょ…落ち着いてっ(^^;

>ウェルディさん
良かった。頑張った甲斐がありましたw

>たくぞうさん
うん。落ち着こう。
癒せてる…のかなぁ?w

>すすさん
フェイト視点だから書かれてないけど、裏では色んな人が動いてます
お母さんとか使い魔とか策士とか。
……若干一名、動き回ってるのが居ますがw

>時計さん
癒されてーw

>やさん
フェイトが動くのか周りが動くのか…
まぁ、一つだけいえることは
恭也は相変わらず恭也だと……忘れちゃダメだよ?w

>nemukeさん
仕留める言っちゃダメーw

さて、ここまで七話も使ってしまうと言う、作者的にもちょっと…なのんびりペースです。
まぁ、この二人らしいと言えばらしいかなぁ?
奥手っぽい恋愛になりそうな予感――
もう暫く御付き合い下さいなw
Posted by kagura at 2007年05月28日 09:20
どちらも対人コミュニケーション能力が乏しいですからねw
さて、自覚したフェイトが迫るのか、恭也がさりげなく仕留める(!)のか、あるいは周りが強制的にお膳立てするのか……楽しみにしてます。
Posted by SMP@ at 2007年05月28日 16:56
ぐいぐい引き込まれる心情描写。
相変わらずいい感じのまったり感。
このテンポとペースがいいですね。こういう感じの描写は大好きなもので。
もはや楽しみのシリーズです。頑張ってください!
Posted by 比翼 at 2007年05月28日 21:00
良いね〜。この心理描写が個人的に好き。
このままの雰囲気で書き続けて欲しい作品です。
Posted by 晴明 at 2007年05月28日 21:13
GJ、癒されました
Posted by ssss at 2007年05月28日 21:31
おー、とうとう自覚ッすか。
このまま頑張って下さい。フェイトも、ヴィータも……ね?(ニヤソ)
Posted by sikoukairoissyo at 2007年05月28日 21:45
ヒィ魔の手がっ、魔の手が迫ってきてるっ!?

>SMP@さん
乏しいですよねぇ…ヤベ、ネタ詰まった(ぉぃ
あと、仕留める言っちゃダメェ!?

>比翼さん
最初はですね?まったりほのぼの、それで短く
をモットーに書いてたんですよ?
最近は何かが違ってきている…なぜでしょうか?

>晴明さん
この雰囲気は維持できるかなぁ?
次回から若干ドタバタになるかもしれないかもしれない。

>ssssさん
うす。癒しましたw

>sikoukairoissyoさん
うっす。ついに自覚させてしまいました。
頑張ります。ええ、頑張りますとも。
でもですね?ニヤソはヤメテーーーーーー!!!
Posted by kagura at 2007年05月28日 22:24
楽しく拝見させて頂いています。
フェイト嬢も自覚して、これからどう動くのかが楽しみです。周りの人も協力してくれるようで何よりです。(アリサはライバルかな?)
出来れば急き立てられて、道を間違えないでもらいたいものです。
Posted by ヤマケン at 2007年05月29日 00:32
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逆のダッチ人形!
Excerpt: 色々と命令されて人形みたいに扱われるバイトを発見した!ヤバい(笑)
Weblog: NYようすけ
Tracked: 2007-06-01 06:11

四日で50マン(笑)
Excerpt: オタクのドウテイキャラのフリして入ったら、やりまくりのもうけまくり(笑)
Weblog: 林田
Tracked: 2007-06-03 15:31
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