2007年07月23日

奥様は魔女? はやて編 前奏 by さとやし

 彼女はずっと悩んでいた。
 このぬるま湯のような関係は、何時まで続けられるのかと。



1>休日の八神はやて

 彼女は悩んでいた。
「なー、シャマル」
「なんでしょう、はやてちゃん。もしかして勉強で分からないところありましたか?」
 意識を頭の中からテーブルの上に移す。真っ白いノート、本当に日本語なのかと疑いたくなる文字の羅列。緊張の糸はプツリと切れ、テーブルに向かい気力も切れる。
 ばたりと仰向けに寝ながら…
「わからへん事だらけやわー」
 こんな言葉を使うのがやっとだった。
 頭の中で言葉にならない何かが、何時までもぐるぐると回っている。
 それがただの難しい何かなら気持ち悪くだってなろうものなのに、むしろ胸のほうが熱くなってくる。
 だから、その何かから逃げるように別の悩みを口にしてしまう。
「これなんやけど、分かるか?」
「……」
 一分経過、二分経過、三分…
「さ、さあお洗濯物しなくちゃ。こんな天気の良い休日なのにもったいないもの」
 慌てて逃げ出すシャマル。ヴォルケンリッターの参謀役も、流石に畑違いの分野には理解が浅いと見える。日曜日のお父さんのように逃げ出した。
 そしてザフィーラも我関せずとばかりに昼寝を決め込む。シグナムかヴィータが居ればもっと場が混乱しただろうにと、居なくてよかったと思いながら。
 その二人の動きを見て…
「勉強ばかりは、守護できんみたいやな」
 と言う。
 むー、と唸りながら……起き上がれば視界に入るだろう宿題から逃げるため、床に転がったまま、さらに転がり続ける。
「恭兄が大学で一年目、ものすっごく苦労したゆーの、分かる気がするわ」

 彼女は地球出身の魔導師である。
 かつて『闇の書』事件の解決後、引退し地球に帰っていったグレアムの姿に思う所があったのだろう。今は管理局の魔導師として働きながらもその一方で、自身も引退後の事も見据えて高卒資格を取るために勉強を続けている。
 彼女同様地球出身のなのはと、地球で長い時間を過ごしたフェイトも同じ思いらしい。

 だが、勉強と言うのは――ひどく難しいものだった。
「アリサちゃんもすずかちゃんも、今頃学校で勉強しとるんやろな」
 バニングスも月村も家は大きい。そう、本当に『大きな家』である。そのための勉強も学業に平行して行っている以上、今のはやてと比べても遜色のない日々であろう。
「同じ苦労を味わおうにも、なのはちゃんとフェイトちゃんは今日は出勤やし…」
 携帯に登録された、友人たちの簡易予定表を見ながら溜め息を吐く。贖罪の意味もあっただろう、夢の為でもあるだろう。それでも疲れたときに溜め息を吐くくらいは許されるだろう。
 そんな時、携帯を手にガバリと跳ね起きた。
 何事かと目を向けたザフィーラは、少々…と言うかは疑問だが、少々邪まな表情をした主の姿を目撃する事になる。
「恭兄、今日は休みやったんか」
 ニヤリと。
 かつての同居人で兄代わりのあの男を呼び出そうと――アドレスを呼び出していた。



2>休日の高町恭也

 ありとあらゆる情報が存在し、あまりの量と無秩序さにその存在価値が限りなくゼロに近いと揶揄された無限書庫も、ある男の出現により情報は分類され、体系化され、価値を急速に高めつつある。
 その男の名はユーノ・スクライア。新進気鋭の考古学者であり、功績から無限書庫の司書長に任命された青年である。

「…で、その傷はどうした」
 リィンフォースIIの情操教育に良さそうな――あの家の大人は少々特殊すぎるから、歪む前に癒し系にするべく教育しようと画策している――各地の読み物を探しながら談笑する男二人がここに居る。
「いえ、その……この間クロノとエイミィのところに翠屋のケーキ差し入れようと、ちょっと地球まで行ってきたんですが…」
 マメな男だと、恭也は思った。
 態々差し入れの為だけに地球まで行く筈が無い。彼が行ったのは『高町家の人間と親しくなるため』であり、差し入れはその口実を得るためのものでしかないはずだと。
「……士郎さんにボコボコにされまして」
 散々『そういう関係じゃありません』と言っておきながら、このような行動に出るとは。
 流石高町家の父、娘に近寄る『敵』を敏感に察知して迎撃したらしい。ユーノが生きているのは彼の理性が勝ったおかげに違いない。

「治療魔法は使わんのか」
「これ以上はむしろ体の治癒力を落とすから駄目だ、と言われるほどやって、これです」
 非常に説得力のある台詞であった。
 所詮、引退して今は喫茶店の店主になったところで『アレ』は高町士郎でしかなかったのだと、強制的に理解させられる。

「まあ、高町家の事はさて置きますが、恭也さんこそどうなんですか」
「俺か?」
「お見合い、何件か良い所まで進んだって聞きましたよ」
 魔導師適正の件を抜かせば、恭也は決して悪い物件ではない。外見や能力は悪くないので――性格も大人の態度でいなせるならば――十分に『買い』であるからだ。
 しかし。
「こっちはともかく、俺のところにすれば男は30くらいまでは独身が普通だしな」
 早くに結婚する人間が居ないわけではないが、恭也はあと五年くらいはモラトリアムを楽しむつもりだった。
「ユーノ、お前だってなのはが何時までも独身だとは思わないんだろう?」
「……ええ、まあ」
 それは理解していると、彼は言う。
 なのはは様々なものを見て、その幾つにも関わって自分自身を鍛え輝いてきた。その輝きを見てきた彼は、彼女のそばでその輝きを真っ直ぐに見てきた自負がある。
「見知らぬ誰かに持っていかれる気も無いだろう?」
「…ええ、まあ」
 あの笑顔が、見知らぬ誰かに向けられるのはあまりいい気のするものではない。それが、誰か一人のために向けられるなど……許せるものではない。
「ならいっそ自分が持ってく気でいるんだろう?」
「ええ、まあ」
 さらりと放たれた答え。
 言葉自体は同じだったが、最後だけは断定口調で放たれる。
 その言葉に気づいたユーノが顔色を変えると、恭也は何故かボイスメモ機能付きの個人端末を構えていた。

「無限書庫の価値が上がるたびに部下が増えて、その統率者としての司書長のランクが上がっているそうだな」
 それに比例して給料も上がっているんだろうと、普段通りの邪悪な顔と声でささやく。
「なのはももうすぐ16……日本だと滅多に居ないが女性は16歳で結婚が可能となる」
 この男が急激に話題を変えるとき、それは話を逸らすとき、または――
「…一体、僕に何をさせようと言うんですか」
 邪悪な企みに強制的に巻き込むときだ。
「何、俺の可愛い妹達に付きまとう野良犬どもの一掃をな」
 貴様は犬のエサだ。
 どこかの地下室で戦った時の吸血鬼のような台詞に、ユーノは知らず一歩下がった。

 ぶぅぅぅん、ぶぅぅぅん、ぶぅぅぅん…
 唐突に発生するバイブ音。マナーモードになっていた携帯を取り出すと、液晶部を見て顔をしかめる。対しユーノはこれぞ天の采配とばかりに逃走経路を脳内に構築し始める。
「はやて嬢か」
「…出ないんですか?」
 その目は、着信を無視する気ならこの事をばらすと、先ほどの報復を狙う目だった。
「いや?」
 退かぬ、媚びぬ、省みぬ。――と言わんばかりに、少なくともユーノに弱気な態度を見せる積もりは微塵も無い、内心怯えつつ表面的には神であろうとも看破出来ないだろうほど平静に。
 ピッ。
「―もしもし?」
『あ、恭兄。今日は休みやろ。ちょう来てほしいんよ』
 声色がピンクであった。
 背筋を駆け上る薄ら寒いものに震えつつ、スピーカーを外部にも発信させる。もしもの時にユーノを巻き込むための準備である。
「……前後の説明を頼む」
『シャマルとザフィーラが頼りにならん。シグナムとヴィータはお仕事。リィンは…お昼寝タイムや。恭兄、大卒やろ』
「高校の勉強などもはや忘れた。フェレットモドキに頼め」
 びくりと、槍玉に上がったユーノが身を竦める。
 夜天の軍団に関わると、ろくな事が無いのは彼自身の身で十分に味わって理解しているからだ。
『ユーノ君、勉強で苦労したこと無いみたいで、上から物見た教え方するから、すかん』
 好かん――好きでは無いというニュアンスだが、このときはむしろ嫌いと聞こえた――という一言に、ユーノは悶え苦しむ。意中の相手でなくとも可愛い女性からの嫌いの一言は、青少年の胸に深く鋭く突き刺さるのだ。

「なのはとフェイト嬢は」
『二人とも今日は出勤や』
「休日ならば地球に出向くのはどうだ。久しぶりにアリサ嬢とすずか嬢に会う機会だぞ」
『あの二人に会うと『何で恭也さんを連れてこなかったの』って言われるからなぁ。釣った魚にはエサやらんとあかんよ?』
「釣り上げた覚えは無い!」
 何故誰もが自分をロリコン扱いするのだろうかと、疑問を持たずには居られない。
 ちなみにアリサとすずかの二人に、管理局を辞めて自分専属の執事にならないかと誘われた事は流石に伏せておいた。二人の目が……肉食獣のそれと非常によく似ていたからだ。
(そういえばあの猫屋敷、ずいぶん大きな白いのが居たが……)
 数回頭を振り、まさか、と疑問を否定する。
『ちゃんと面と向かって言ってあげるのが大人の仕事言うんやないの』
 ……くすっ。
 ばきっ。
 がしゃがしゃん。
『何や今の音?!』
「気にするな。不用意なフェレットモドキが無限書庫の崩落に巻き込まれただけだ」
『相変わらず不幸なユーノ君。人災に巻き込まれるなんて…』
「はっはっは、人聞きの悪い事を言うなはやて嬢。これは天誅と言う名の天災だ」
 天誅と明言している時点で、人災と言う名の犯罪ではないのか。いつの間にか鋼糸に絡めとられながら、ユーノは薄れ行く意識の中でこの状況を呪っていた。



3>休日のおしゃべり

 予想に反して、苦労人でもあるユーノは家庭教師として優秀だった。
 知恵熱でも出ているのか、額に冷却シートを張ったまま唸りながらも勉強を続けるはやてに、恭也はとりあえず差し入れでも作ろうと台所に入ると、既にそこにはシャマルが居た。
「あなたもズルイ人ですね」
 そこにあるのは疲れた声。
 何故このような事をするのかと言う、詰問の声でもある。
「この場合はユーノに任せるのが適任だと思っただけだ。本の虫になっているアイツに午後だけでも有給を取らせてやってくれないかと言ったら、学芸員の連中、諸手を挙げて歓迎していたぞ」
 趣味と実益を兼ねているといえば聞こえは良いが、働きすぎで有給を上手く消化してくれない人間と言うのはむしろ害となる時がある。それが上司ともなれば、部下には辛いものなのだ。
「そういう事を言ってるんじゃありません」
 はやての感情をどうするつもりか。シャマルはその一点をのみ心配している。
「言いたい事は凡そ察しが付く。それでもだ」
 しかし一方の恭也は杞憂だと思っている。はやてにとって数少ない親しい男性。長年兄代わりを勤めてきた、他の男よりも幾分親しいだけだと。
 その間にある感情が――ここ数年、わずかに形を変えていると、シャマルはそれを心配していた。


「なー、ユーノ君」
「……そういう呼び方をされる時は大抵ろくな事が無いんだけど…何?」
「なのはちゃんとの仲、ちゃんと進んどる?」
 パキン。
 陶器が力任せに引き千切られるような音がキッチンから鳴り響く。
「や、やだなあ。僕となのはは友達だよ」
 自分さえ騙せない嘘を、誰かに言うべきではない。
 一瞬で看破され、更なる追撃は飛ぶ。
「知っとる? 最近なのはちゃんに言い寄ってくる人増えてるて」
「…へぇ」
 ユーノの口調が、はやてにすら気づかれない程度、固くなる。
 キッチンから女性の声で『ひぃぃ』という悲鳴が聞こえてくるが、そのすぐそばから聞こえる『くっくっくっくっく』という笑い声のせいだろうから、すぐさま無視された。
「その辺の事は恭也さんに任せてあるよ。あの人の目を逃れて接近できる『チャレンジャー』なんて居るはずないし」
 ちなみにチャレンジャーと書いて『命知らず』と読む。

「―それにさ、そういう君こそどうなんだい」
 ユーノの切り返しに――はやては動きを止め、キッチンからの物音が消えた。
「?」
 意図が掴めないはやては、顔に疑問符を貼り付けたままノートから顔を上げる。
「無限書庫にはありとあらゆる情報が貯蔵される。僕もよく知らないけれど、情報を元に自動的に本を作り出す機能を備えたロストロギア……って説もあるくらいで」
「…へぇ」
「つまり」
 一拍置く。
 キッチンに居る二人の緊張が高まっていく事を感じて――
「恭也さんのお見合い情報もちゃんと本になってるんだよ」
 みしり。
 やはりキッチンから嫌な音が響く。ただしステレオで。
「あの性格だから、大人の態度でいなせる人限定だけど…そのまま結婚式に雪崩れ込みかけたのが三、いや四件あったんだ」
 嘘だと断言できないところが無限書庫の凄いところか。
「へぇ?」
 立ち上る瘴気。
 その発生源が二つである事に気づいたユーノは、更に煽る事を決意する。

「はやてもお世話になったよね、ゲンヤ・ナカジマさん」
「あー、うん。かっこいいオジサマやったわ」
 研修期間に世話になった、似てはいないのに父親を思い出させる年長の男性。
「そのゲンヤさんの娘さん、ギンガさんて言うんだけど……恭也さんとは地上部隊同士、面識があるらしくて…」
「ほう?」
 はやて以外の発生源が増える。
 一つはキッチンから。もう一つもキッチンからだが、幾分怯えが混ざっている。
 うまく行ったと彼はほくそえむ。
 そして最後の爆弾を投下した。
「プライベートで会ってる姿、うちの職員が目撃してるんだ」
 会心の一撃、いや痛恨の一撃である。それが実に事務的なものであった事実は、ここでは不明のままにされてしまう。
 それを確信してユーノは立ち上がる。
「はやてもシャマルさんも『用が出来た』みたいだから僕はお暇するよ」
 恭也さんによろしくね。そう彼は言って、消えた。

 そして。
 誰も聞きたがらないだろうが……一部の女性の嗜虐心を絶妙にくすぐる男の悲鳴が真昼の住宅地に木霊したという。



4>休日の最後はお風呂で

 年齢差は縮まらない。
 自分が年を重ねて子供から大人へと変わったというのに、縮まらない年齢差は互いを『兄と妹』または『父と娘』のような関係のままにさせる。
 その関係がぬるま湯のように気持ちいいと感じる一方で、強く不満に感じている自分がいる事に気づく。

「…ふぅ」
 湯船に浸かりながら天井を眺めていると、溜め息がいつの間にか零れていた。その溜め息は湯が気持ち良いのではなく、心の中に沈んだ澱がもたらすものだった。
「はやて?」
 もしゃもしゃと、長い髪をシャンプー塗れにしながら、目を硬くつぶったままのヴィータが気遣わしげな声を向ける。はやての方を向いた時に体に張り付いた髪の毛が滑ったのか、変な感触を感じたらしく表情はおかしなものになった。
「んー、ちょう悩み事。でも乙女の秘密やからヴィータにも内緒やでー」
「なんだよ、それー」
 クスクスと笑い、ごまかす。
 おそらく男女間の恋愛という意味では一番遠い場所に居るヴィータ。はやてが見る限り恭也と彼女のスタンスは――悪友か、兄妹のそれに近い。
「リィンはお昼寝してたから知らないですけど、シャマルさんから聞いたですよ? ユーノさんとおじーさんがきて、恋バナしてたそうですよ」
「ほほぅ」
 即座に反応するヴィータ。
 聞かれていた事に驚くはやて。
「リィン?! …まさかシャマルの口がこんなに軽いとはっ!」
「…今更シャマルの口の軽さを嘆いても。あいつ、シグナムのノンエアっぷり並みに色々滑るからなぁ」
 再び突っ込みを入れざるを得ないヴィータだった。


 くしゅん。
 くしゅん。
「シグナム、シャマル、二人とも風邪か? 主にはうつすなよ」


 …ざばぁ。
 小柄な女性とはいえ、二人も入れば湯は溢れる。浮いている、湯の張られた洗面器とその中のリィンはさておいて。
「……」
「……」
「どないしたんやリィン、ヴィータ見て」
 浮くはやて。
 まだまだ浮かないヴィータ。
 悲しいかな、浮くはずも無いリィン。
「ヴィータちゃんを見てたんじゃありません、ヴィータちゃんの『胸』を見てたんですよ」
「なっ!」
 途端、自分の胸をその手で隠すヴィータ。顔は湯の熱さ以外のもので赤く染まっている。
「ヴィータちゃん、最近、ちょっと膨らんできたですよ」
 言いながらリィンは自分の胸を見る。
 起伏の予兆すら伺えないそれを見て、再びヴィータの胸を見る。
 ……Aに違いない、もはやAAではない。
「不思議ですねー」
 その言葉の裏に、リィンの背後にシャマルの幻影が浮かんで見えた二人である。しかし直接被害にあっているヴィータよりもはやての方が復帰は早かったらしい。
 むに。
「はははははははやて?!」
 スキンシップと称して行われる胸チェック。いつもはシャマルとシグナムが被害者となるそれをやられ、ヴィータは跳ね上がるように驚く。
「…む、確かに膨らんどる。うちとした事が気づかへんなんて…迂闊やった!」
「いや、残念がってないで手をはなしてくれはやて! わ、ちょっと、それ洒落になって…きゃぁっ!」
「ひゃー、ヴィータちゃん、可愛い悲鳴ですねー」
「うわあぁぁぁ、リィンまで壊れた?!」

 ――数分経過。
 やり遂げた顔のはやてが、さめざめと涙を流すヴィータの頭を撫でている。

「何故ですか。何故ヴィータちゃんの胸が。リィンと同じヴォルケンリッターですのに?」
 ぱしゃぱしゃと湯を叩きながら憤慨するリィンに、ヴィータは答える事にする。
 無視して余計な事をこれ以上されてはたまらないから。尤も実力行使に訴えるのははやてだから、反撃も反逆も出来ないのだが。

「あー、みんなで開発してたんだけどさ、変身魔法のバリエーション。とりあえず『加齢式』って呼んでる。時間の経過に合わせて少しずつ年を重ねていくように見せかけるために……こう、少しずつ成長するように見えるようにさ」
「へぇ?」
 きょとんとするリィンに、彼女はちょっとだけ自慢げに言葉を続ける。
「急激に成長したらおかしいだろ? そんな場所で長い時間暮らす時に使うためにな」
 たとえば地球のような、魔法が存在しない世界で『昨日の姿』と『今日の姿』で突然変わったなら驚かれるではすまないから、永続的に変化し続ける魔法が必要とされた事による。

「ヴィータ可愛いからなー、教え子たちにも可愛いって言われとるんよ。気にしてるんやね」
「……うぅぅ」
 小学生にしか見えない外見、のろいうさぎ付きの帽子とゴスロリ風味のバリアジャケット、ぞんざいな口調と可愛らしい物好き。このどこに萌え要素以外の物があろうか。

「話、戻すけどさ」
「あんま戻してほしい話題やないのになー」
「あれだけやられたんだ、少しくらい仕返しさせてもらうぞ。……で、はやて。二人に何言われたんだ」
 むむむと唸り、何処まで離していいものやらと考える。
「大した話はしてへんよ。なのはちゃんの事とか、恭兄が地味にモテてるとか、そんな話や」
「……は?」
「……え?」
 後半部分を聞いた瞬間、ハニワのように目も口もぽかんと開けて動きを止める。
「あー、はやて?」
「ちょっと耳に水が入ったみたいです、よく聞き取れなかったのですよ?」
 二人同時に手を前に出し、ちょっと待ってと言いながら耳に入った水をとる真似をする。

「もう一度聞くですよ」
「二人に何言われたんだ?」
「大した話はしてへんよ。なのはちゃんの事とか、恭兄が地味にモテてるとか、そんな話や」
 ぴちょん
 天井から水滴が落ちた。
 たちまち落ちる沈黙の帳と、僅かな時間を置いてから突然吹き上がる――
「あははははははははははは。幻聴が聞こえるよ。なぁリィン」
「うふふふふふふふふふふふ。本当、おかしな幻聴ですねヴィータちゃん」
 ――笑い声。
「二人ともそんなに恭兄がモテる。おかしいん?」
 ぴたり。
 またもや落ちる沈黙。
「恭兄あれで細かいところに気ぃ利くし、主夫の必須技能完璧やし、性格は悪いけど顔悪くないし」
「褒めてるか、それ」
「二割くらい」
「残りの八割が気になるです」
 それは言わぬが華というものだろう。
「大体、二人は恭兄の事どう思っとるん?」
「おもちゃ」
「おじーさん」
 即答。
 反射で応えたとしか思えないほどの、打てば響く答えの思い切りの良さに、むしろはやては呆気にとられる。
「じゃあはやてはどう思ってるんだよ黒助の事」
 切り返され、はやては考え込む。

 変人。
 確かにそうではあるのだが、その一言で言い表せる部分『以外』の事をこの数年の間に見てきた。だから、その一言を言ってしまえば、今時分の中にある何かを壊してしまいそうで……怖かった。
 だから、何か言葉を探そうとして――
「恭兄は、きっとうちにとって――」
 考えるよりも先に言葉は漏れていて――

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 ――考え込んでいた所為だろうか。
 彼女はお風呂でのぼせたようで、一緒に入っていたヴィータとリィンの二人がシャマルに怒られる声を聞きながら――自分の心が分からないと悩んでいた。



あとがき
 時間は中学卒業のすぐ後くらいでしょうか。
 はやてやなのは達、地球出身の魔導師が引退後の事をどう考えているか分かりませんが、負傷で引退の可能性がある以上、その時のためのある程度の備えは必要でしょう。
 とりあえず彼女らに必要なのは高卒資格かと思うのですが…

 状況としてはフラグ立ちはじめですね。
 しかし『奥様は魔女? はやて編 前奏』と銘打っているだけあって、この後色々あってから結婚になだれ込むわけです。

お風呂場
 日本式の湯船に慣れたヴォルケンリッターのため改装済み。いつ呼び出しがあるか分からないので、一度に大人数が入る事も出来るように広い造りになってる。
 普段一人で入浴するザフィーラだが、時々狼姿の彼をはやてが洗っている。……犬だけに飼い主に洗われるらしい。

はやて式スキンシップ
 セクハラと紙一重。
 既に熟練の域に達している。
 シグナムも30秒で陥落するとかしないとか。
posted by TRASH BOX at 23:13| Comment(13) | 三次創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そのまま結婚式になだれ込みそうになるなんて…実は気を抜くと直に持っていかれちゃう物件なのか?
>恭也

そこではやては逆転のためにはやて式スキンシップを恭也にすれば万事OKですよ!
Posted by surt at 2007年07月23日 23:49
ユーノ君の逆襲。
士郎さんに何されたんだろう、気になるところですw
Posted by みみみ at 2007年07月24日 00:16
そのまま結婚式になだれ込む…。
だめだ、お見合いからなだれて結婚式な恭也の姿が思い浮かばない…。(つдT)
げに恐ろしきは女性の行動力か…。

ちなみにこのSSを見て恭也×ギンガを見たくなっちゃったのは此処だけの秘密だ♪
Posted by a.cline at 2007年07月24日 00:18
つまりは「奥様は魔女 ギンガ編」をプリーズ?

お疲れ様です。
恭也はお持ち帰りされ易いキャラなんですね?w
争奪戦になったら大変ですね(苦笑
バーゲンセールの如っ!?(冷汗
恭也…南無(合掌

今回、「はやて編 前奏」と言う事は…
そのうちなのは編の真相とかも!?
激しく期待してますんで!!

Posted by 神楽朱雨 at 2007年07月24日 01:21
御疲れ様です。
しかし、この状態からあの、何時も爽やかエロ夫婦に
どうなって逝くのか想像がつきません。
後、リンディ編物凄く期待して折ります。
Posted by hou at 2007年07月24日 02:00
おぉ!はやてきた〜!
未だ好き未満な感情に戸惑うはやてがすっごい可愛い(笑)

てゆーか、毎度風呂場で何やってんだ夜天の主……。
違和感ない辺りがはやてクオリティなんだろうか……。

さて、ユーノに対する報復が本筋並に気になるのは仕様ですか?(笑)
続きをお待ちしております!
Posted by 叉夜(魔) at 2007年07月24日 02:06
はやてが真雪3号としか思えませんな……(汗
さざなみ寮のセクハラ番長に続く、機動六課のセクハラ隊長、みたいな……

真雪+ゆうひ=はやてでok?(激しくマテ



次回作は誰なのか、楽しみにしてます。
Posted by 厨年 at 2007年07月24日 07:26
この後恭也に報復されたであろうユーノくんの行方が気になります....
Posted by ひより at 2007年07月24日 09:17
ギンガ編待ってますよー
ユーノはどうでもいいというか。
奥様はアルフ・旦那はザフィーラもいいなあ
Posted by 水城 at 2007年07月24日 09:26
 見合いの事を黙っていた恭也に悲鳴を上げさせたり、ヴィータにセクハラしたりと、基本的に明るく楽しく過ごしている様子も読んでいて楽しかったですが、更に、そこで時々真面目に考え込み、自分の感情を少しづつ自覚していくと言うはやての様子は、もの凄く微笑ましく、ニヤニヤとしていく頬を抑える事が出来ませんでした。その後の経過なども、とても興味深いです。
Posted by かれな at 2007年07月24日 11:29
はやて編なはずなのにこのままギンガ編でもヴィータ編でもいけそうな感じのお話でしたね。
>そのまま結婚式に雪崩れ込みかけたのが三、いや四件
その三、四件のお見合いがどう行われて結婚式に雪崩れ込みかけたのかが大変気になりますw

さて、前奏ということで少しずつ恭也への想いを自覚し始めてるはやてですが、次ぐらいに恭也を自分のものにしたいという思いが芽生えるのでしょうか?
Posted by J at 2007年07月24日 16:07
いよいよ本命が来ましたねー。というか好きでも「性格は悪い」は確定なのか。
できればこの続きを早く書いて欲しいかなと思います。
どうかよろしくお願いします。

ちなみにイメージに合わないかもしれないけど、恭也も英語ならある程度教えられる可能性があります。
OVAの設定によると英語の他、中国語(広東語)も使いこなすマルチリンガルだったりするので。
でも香港に行ってないとダメかなあ。
Posted by KS at 2007年07月24日 18:07

 やはり感想はありがたい、栄養剤のように感じられますね。
 補給しないと萎れそうです、PCの熱さと気温の暑さで。


>surtさん
 悪くない物件のようです、あの性格をいなせる余裕さえあれば。

>みみみさん
 ユーノ君は士郎さんに『うちは剣術を伝える家だから〜』と言われ、かつて恭也(DW)が受けた修行を……これ以上は言えません…。

>a.clineさん
 儀礼的に、断る事を前提に見合い場に行った恭也をそのまま式場へと…恐るべき行動力です。
 やっぱりギン姉編無いと駄目でしょうか?

>神楽朱雨さん
 ぐっ、やはりギン姉編を書かねばならぬと言う声がここにまで…
 今書いてるのはフェイト編の前奏なんですけどね。なのは編……前回以上にホラー呼ばわりされる気がする。書くべきなのかなぁ?

>houさん
 きっと開き直れば早いのですよ、エロ夫婦化。
 リンディ編はちょっと…属性が違うので…誰か書いてくれないかな……?

>叉夜(魔)さん
 初々しいはやてと見せかけて、小悪魔的な所からいつものエロ有りへ。そう、これがはやてクオリティです。

>厨年さん
 セクハラ。けどパワハラにならないのがはやての人徳でしょう。

>ひよりさん
 ユーノ君は無限書庫に篭り、更なる真実を掘り起こす予定です。

>水城さん
 うわあああ、ここにもギン姉編待ってる人が居るぅ?!
 アルフ×ザフィーラか……この二人、正式に管理局に所属してないから収入無いんだよな…どうやって暮らすんだろ?

>かれなさん
 前回がゴール後だったので、始まりを書くのが筋かと思いまして。
 これから『好き』という感情に気づいた時のはやては……色々と話が膨らむ…。

>Jさん
 まだルート分岐前です。
 これから他の人のフラグが立つ事で、連鎖的にはやてのフラグが立つ事があるわけです。
 フェイトのフラグを見る事で、胸の中に『何か』が生まれる事を自覚する…という感じに。

>KSさん
 本当に日本語なのか〜という件があるとおり、国語または古文を想定しています。
 日本人ではないシャマルにはつらかったようですね。
 そして英語ならもしかすると、恭也に頼る姿もあるかもしれません。


 うう、なんだかギン姉オファーが凄い。
 今メインで書いてるのは『フェイト編 前奏』『ギンガ編』『』もし恭也が怪我で引退していたら』です。暫くかかりそうなんでお待ちいただければ幸いです。


Posted by さとやし at 2007年07月24日 22:56
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