2007年07月26日

奥様は魔女? ギンガ編 by さとやし

 奥様の名前はギンガ。そして、だんな様の名前は恭也。ごく普通でない二人は、一人の少女を出汁にして逢瀬を重ねあう恋をし、すわ姉妹丼かと疑われる結婚をしました。でも、なにより違っていたのは、だんな様は魔法剣士で、奥様は対変人のエキスパートだったのです。



1>朝の風景

 もぞり。
 布団を押しのけ、起き上がる。
 彼女の目の前には年上の愛しい男性の眠る姿がある。無防備なその眠り顔が普段とあまりに違うのでつい、うっすらと無精髭の生えた頬を撫でてしまう。そのおかしな感触に、くすりと笑顔を見せる。
「何をしているのかね、ギンガさんや」
「あら? 恭也さんのおひげを撫でていただけですよ」
 仕返しとばかりにギンガの頬を、その無骨な手で撫でる。
 しっとりとした、柔らかく暖かい感触が心地よい。そんな事を考えていると、いつの間にかギンガの手が恭也の手に添えられている。頬に朱が差し、目元は潤んでいる。
 もう朝なんだけどなぁ、時間大丈夫だっけ? などと考えるが、つい、その色艶ある視線に誘われ――
『きゃー、鍋がー?!』
『何をしているんだスバル!』
『えっ、あ、どうしようお父さん!』
『生身じゃ危ない、まずはバリアジャケットを――』
 台所から轟く悲鳴に何もかものやる気を削がれた。
「……起きましょうか」
「……そうだな」


 既に鎮火されていたキッチンを一瞥、照れ笑いを浮かべる義父ゲンヤと、頭を押さえてうずくまるスバルを見る。
「なにやったんですか、今日は」
 いつの間にか耐火パネルに張り替えられたキッチンを見やり――
「スバルが魚を焼こうと、火力を最大にな……」
 菜箸を突き刺すと、魚がボロリと崩れた。表面だけでなく、身の部分だけでも無く、骨までもが完全に炭化していた。
 何をした、そう言いたくなって眩暈を感じ、手で目を覆った。
「あ、あはははは」
 ちなみにスバル、ここ暫くで冷却系の魔法を幾つもマスターしている。習得の動機はこのキッチンだ。既にキッチンに全く被害を及ぼさず、対象だけを冷却・凍結できる精密さを手に入れていた。
「全く…後は俺がやりますから二人は着替えてきてください」
「すまんな、恭也君」
「構いませんよ。ただ……スバル嬢、後で地獄の特訓な」
「ひぃぃぃぃぃぃ?!」

 制服に身を包んだままの朝食。
 ただ一人ギンガだけが制服を着ていない。着ているのは――マタニティドレス。
「あああああっ、ギン姉、ご飯は私が運ぶからじっとしてて!」
「そうだぞギンガ、今のうちがスバルを嫁に出せるように教育するラストチャンスなんだ」
「お父さん、ラストチャンスって何?! 私そんなにお嫁さんになれそうに無いって思われてるの?!」
「行く気あったのか、スバル嬢?」
「恭也先輩、それどういう意味ですか、私がお嫁さんなりたいって思うのはおかしいですか!」
「?」
「そこ、心底変だって顔しない!」
「いや恭也君、私もスバルには幸せになってほしいのだよ。花嫁修業くらいは…」
「お義父さん、貴方の胃袋と財布は幸せに成りましたか」
「無論、不幸になったに決まってるじゃないか」
「お父さんまで?!」

「もうお父さんもスバルも。安定期なんだから大丈夫よ。それに少しくらい運動しなきゃ体に悪いもの」
 さらりと暴走する家族を諌める。
 その姿にスバルは、さすが恭也先輩の奥さんやれるだけあるなぁ、などと失礼に聞こえかねない適切な評価を下していた。



2>勤務中

 毎日毎朝、誤解して――本当に誤解かどうかは一切の謎――襲い掛かってくる白覆面を一掃し、駐輪場にバイクを停める。増設されたサイドカーからはふらふらになったスバルが降りる。
「流石だ、スバル嬢。まさかグランダッシャーを体得しているとは思わなかったぞ」
「そりゃまあ、流石に毎日あんな事してたら真面目に相手するの面倒になりますから」
 流石に姉の夫に手を出すほど馬鹿ではないし、この男は信頼でき信用に足る意思を持つが、その性格と行動は溜め息を漏らさざるを得ないものばかり。
 何故このような事になったのかと神を呪いながら歩き出すと、そこには何時の間にか立派な教会が建っていた。
「は?」
 立派な教会だった。
 昨日定時で帰る時にはまだハリボテだったはずなのにと。
 困惑するスバルをよそに…
「おはようはやて嬢。随分進んだな」
「あ、恭兄にスバル、おはようさん」
 朗らかに挨拶しあう二人の姿があった。

「はやてさん?! この立派な教会は一体なにごとですか?!」
「やー、ほら、昨日、キャロとエリオの仮装見た女性職員が突然自主残業してくれてな、こんな立派なものになったんよ」
 昨日の今日で、すさまじい行動力である。
「……内装が、物凄いんですけど」
 イベント用のハリボテだったはずの教会は、本式のものに劣らぬ装飾が施されている。メッキの安物などではなく、歴史を感じさせる『本物の輝き』を持ったそれに、圧倒されたスバルは冷や汗を流す。
 そしてその正体は――
「何処から聞きつけたんか知らんけど、カリムが貸してくれたんよ?」
「教会の偉い人が何でこんなトンデモイベントに……」
 高町症候群は、きわめて高い感染力と発症率を誇る事を忘れてはなら無い。

「それにな、あっち見てみぃ」
 クイクイと、指で指すのは駐車場の端っこで、体育座りしながら『アリさん、アリさん…』と呟く美少女にされた少年の姿。
「エリオ…」
 ホロリと涙。
 入隊前の身体データから作ったウェディングドレスも、昨日の試着で問題点が浮上、縫い直されたそれを着せられそうになり逃げ出し――あろうことか息を荒げて血走った目をした金色の鬼に捕まった。
 そう、今の彼はオシオキ用衣装を身につけた『エリオ・ミニスカウェディングドレスver』なのだっ!!
 …慰めるように彼の肩をぽむぽむと叩く、門番のガーゴイルの仮装をした――翼をつけて白髪染めを塗られた――ザフィーラの、達観した表情が印象的だったと、彼を哀れむ全ての者達の心をうったという。
 それを見て恭也は忌憚ない意見を述べる。
「むう、いい仕事しているな」
「は?」
「見ろ、あのミニスカートとストッキングによって作られた『絶対領域』のバランスを」
「恭兄、そういうの詳しかったん?」
「まあ、俺の実家は女性だらけで物凄く姦しかったからな、BLだヤヲイだ、そんな物が転がってたときは絶望したぞ」
 思い起こされる『高町家』での生活。賑やかで楽しい、無茶苦茶な日々。
 こちらの『高町家』に居ない彼女らは今、どうしているのだろうか。
 そんな事を考えて女所帯特有の……男には想像すら出来ない暗部の数々を思考の海の片隅の端っこの奥に追いやる。
「なるほどなー、なのはちゃんがノリノリで仕上げた理由が分かったわ」
 ……なのははやはりなのはなのかと、頭の中で早口言葉のような益体も無い事を考えてしまう恭也であった。

「いい加減、着替えてもいいですか?」
 少年のそんな言葉が……無常にも世界に溶けて消えていった。世は無情である。



 ばたん。
 相変わらずトンテンカンテンイベント用の設備充実に余念の無い六課の駐車場に止まった一台の車から、一人の女性が降り立つ。彼女は車から降りるとぐるりと回り、助手席から荷物を降ろす。
 それはたくさん食べる恭也とスバルのための昼食、つまり手作り弁当だった。

「おい、あれ…」
「あの男の奥さん、だよな?」
「くぅっ、あんな美人で可愛くて、しかも若い……幼な妻ゲットだと、あの野郎」
「いや幼な妻じゃなくて若妻だろ? そこ間違えるとかなり痛い」
「その怒りがあるなら、アンタはギリギリ人間(白覆面)だ」
「明日の襲撃からは俺も仲間に入るぞ…」
 その怒りが原動力となり、今日もまた作業はすばらしいペースで進むのである。

 ――受付に彼女が姿を現したとき、奇妙な静けさが生まれた。
「ギンガ・高町です。高町恭也とスバル・ナカジマに届け物があって来ました。呼び出しをお願いしたいのですが」
 受付嬢の頭の中に、この来客のデータがインプットされ、記憶の中の情報と照らしあわされる。
 あの『変人』高町恭也の嫁をやれる人間!
 あの『暴走特急』スバル・ナカジマの姉!
 二つのキーワードが、目の前の美人が何者であるのかの理解を阻む。
 だが彼女もプロの受付嬢、自身の動揺など微塵も見せずに――
「はい、では今確認しますので少々お待ちください。機動部隊オフィスですね、今、高町恭也とスバル・ナカジマに――はい、分かりました」
 きわめて冷静沈着に応対していた。
「暫くお待ちください、二人がこちらに向かっているとこの事で――」
 ぎゅぎぎぎぎっ!
 ずざぁぁぁあ…!
 施設内だというのに展開されたウイングロードを滑走する妹、魔法による身体強化を膝に集中させて体感時間を引き延ばした神速を多用して現れる夫。
 その異様な光景に職員たちすらドン引きする光景を見て…
「駄目ですよ二人とも、こんなところで走っては」
 全く慌てない――十数年スバルの姉をやった結果身についた平常心――ギンガの姿があった。
 そして平然とその注意を流す二人に茶目っ気たっぷりに荷物を持ち上げて――
『めっ!』と。そして表情を一転。
「お弁当、作ってきちゃいました」
 そんな事を言うのだった。


 キリキリキリ。
 ティアナ・ランスターは何故か不幸だった。それを口にすると周りから『今日も不幸なのね』と言われるので黙っていたが。
 黒いのだ、空気と雰囲気が。
 キリキリキリ。
 痛む胃を押さえながら、医務室のシャマルから貰ってきた『自社製品』の胃薬を飲むかどうか迷っていた。
「大丈夫、ティアナさん?」
 貴女が原因です、とは言えず…
「いえ、最近仕事が大変で、胃が…」
「そう、それは大変ね。私もお手伝いできたらいいのに」
 それでもやはり、貴女が原因ですと言う勇気は無い。

 高町恭也とギンガ・高町、スバル・ナカジマの三人が作るアットホーム・夫婦・姉妹愛の三つがブレンドされた空気に触発されるように――夜天の主と、雷神と、守護騎士の三人の計五人、彼女らの作り出す戦争にも似た気配に――膨れ上がる精神エネルギーの奔流が唸りを上げる。
「美味しいですねギンガさん! いいなぁお兄ちゃん、毎日こんな美味しいもの食べてるんだ」
「ふふふふふ、羨ましかろう異次元妹よ。羨ましかったらユーノといい加減くっつけ」
「やだなぁお兄ちゃん、ユーノ君は友達だよ?」
 かわす、ではなく何の気なしにスルーしてしまう。
「そのボールが友達ってレベルの言い方は止めた方がいいですよ?」
 何となくユーノはMなんじゃないだろうかと思い始める六課の面々であった。

 だがこんな事で終わらないのが六課首脳陣だ。
 比較的常識人であるティアナ、キャロ、エリオの胃に多大な負担をかけながら――話は続く。
「それにしても恭兄、ギンガさん妊娠してて大変やないの?」
 挑発を含む、悩ましいほどに艶を含んだ視線。
 それは誘いの視線である。恭也は瞬く間に無視を決め込んだ。この話題に触れた瞬間、飛んできた火の粉で全身大火傷、入院してしまうことが確定するからだ。
 とはいえ完全に無視すれば、それはそれで後々に問題を残す。
「大丈夫だ、問題は無――」
 無い、そう言いきる前に。
「大丈夫ですよ、八神部隊長」
 夫である恭也が兄代わりを勤め、父であるゲンヤが指導した事で、ある程度の『親しさ』をもつ間柄のギンガがはっきりと階級を口にする事で、場が一気に硬直する。
「お父さんもスバルも恭也さんも、私のすること奪っちゃうくらいに家事手伝ってくれますから」
 だから、人の家庭に手を出すんじゃない。
 そんな意思がその視線には込められている。

 どさり。
 胃を押さえながらキャロが倒れた。
「キャロ?!」
「いたいよう、いたいよう…」
 うんうん唸るキャロ。実は余裕があるんじゃないかと疑いもするが、顔色も悪く、脂汗まで流している。
「エリオ、これを口実にキャロを医務室に連れて行くわよ。フリードも……あら?」
 フリードは……既に逃げ出した後だった。
 キャロは痛みに朦朧となる意識を必死で繋ぎとめながら――フリードに、試練と称してヴォルテールをぶつける事を決意していた――!!

 ヴィータが逃げ去る三人を羨ましく目で追いながら、再びテーブルへと目を向ける。
 その目は既に、戦士の目だった。
 だがっ!
 はやても、ヴィータも、シャマルも、なのはも、スバルも、ギンガもっ――その場に居る女性の全ての動きを止めるシグナムの最終奥義、ノットエアリーダーの上級技『フルーズ・ザ・エア』が炸裂する!!
「妻が妊娠中ではもてあますのではないか、性欲を」
 何もかもぶち壊しにするッ!
 これがシグナムが、ヴォルケンリッターの将である証だといわんばかりに!!
「大丈夫ですよ、シグナムさん」
 ほんわかと、大人の女性の――実年齢では無く精神年齢での――応対がなされる。
「何が大丈夫なんだ」
 その疑問は、ギンガからの返答ですぐに氷解した。
「その辺はスバルに任せてますから」
 一瞬にすら満たない、刹那の静寂の後――唐突に逃走する男女一名ずつとそれを追う女性陣、なぜか加勢する白覆面。六課の機能は完全に麻痺したという。



3>終業後

 差し向かいでビールを傾けながら、ソーセージをかじる。なのはが『恭也』経由で貰ったという『月村特製』のソーセージである事に多少の疑念を抱きつつ、素直に美味い事だけを考える。
 それ以外の事を考えてはいけないとばかりに、食べた記憶の無い変わった肉の味に舌鼓を打ちつつ……
「お義父さん」
「何かね」
「……スバル嬢、治癒魔法が上手くなりましたね」
「……何故菜切り包丁に血曇りがあるのか、問いただしたい気分ではあるがね」
 そしてタイミング良く、それともタイミングを図る必要が無いほどに頻繁なのか…
『あいたーっ?!』
『だからちゃんと指を丸めなさいって…』
 キッチンから飛び込んでくる姉妹の声を、二人は聞いていた。
「今日の夕飯に、血の味がしない事を祈ろうか」
「そうですね」
 そして二人はビールを傾けるのだった。


 何故か包丁を持っていた筈の右手にまで切り傷を付け絆創膏だらけになった両手。それを見ながら三人は、大皿に盛られた野菜炒めを見る。
「野菜炒めは…バラ肉じゃないのか?」
「現実は無残なまでに現実ですから認めましょう。スバル嬢の手を見ればここにあるのはレバーで間違いありません」
「そうか、そうだな」
「泣かないでお父さん、きっといつか上手になるわ……ううっ」
 ほろり、涙が流れる。
 ゲンヤがハンカチで目元を拭い、ギンガがエプロンで顔を隠し、恭也がスバルに見えないタイミングで目薬を隠す。熟練のタイミングである。
 だというのにスバルはこの芸を理解せず……
「イジメだーーーっ!」
 泣くのだった。
 手をぶんぶんと振り回し――子供ならともかく、六課でガードウイングを勤められる彼女がするのであるから――恭也が己のツッコミ属性を活かし、虚空から取り出したとしか思えないハリセンで彼女の頭を小気味良い音を立てながら弾いた。
 星が見えたスター、などという彼女をよそに三人は…
「人聞きの悪い事を言うんじゃない」
「そうだぞ? これは愛の鞭と言うのだ」
「そうよ、私たちはスバルが憎くて言ってるんじゃないの。上手になってほしいから言っているのよ」
 年長者が持つ見守る目を向ける。
「……ホント?」
 その表情は、仕掛け人形のように一転する。
「さあ?」
「だと思うか?」
「スバルがそう思う鳴らそうかもね」
 ウインク。 
「うわぁぁぁぁぁーーーんっ!!」
 世の無情を嘆き、彼女は住宅地の上空をウイングロードで駆け抜けてゆくのだった。

「いや恭也君が来てから家の中が明るくなって嬉しいよ」
「はっはっは、任せてください。例えいかなる時であろうとも此処を笑いの絶えない家にして見せましょう。具体的にはスバル嬢で」
「ふふふっ」
 スバルは家の中に自分の見方が居ないことを知らずに済んで、逃げ出して正解だったろう。……そして、ティアナからの連絡によってスバルを引き取りに行くのが、いつの間にか恭也の日課となっていた。



4>夜の二人

 ふぅ。
 息を吐きながら、ゆっくりと床に敷かれたクッションの上に座る。
 服の上からも分かる大きさになりつつある下腹部に手をあて、笑みを浮かべる。母もかつてはこのような思いを抱いていたのだろうかと。
「大丈夫なのか、その、お腹は」
「はい」
 切れ長の、少しきつめに見えるその目が笑みの形に変わる。本当に幸せそうなその表情に、むしろ恭也のほうが気後れしてしまう。

 その表情に恭也は複雑そうな表情を浮かべる。
 思い出すのは父の姿と母の姿――自分の母と、こちらの母の姿。父の存在がどれほど母を幸福にしていたかを思い知らされる。母にあれだけ幸せそうにさせる父に、自分は僅かでも及んでいるのだろうかと。

「大丈夫ですよ恭也さん、貴方が居てくれるんですから」
 言い切られた。
 口に出していなかったはずなのにと、表情を変えるような男ではないが、内心は驚愕に染まっている。
「恭也さん、ポーカーフェイス上手いんですもの。私だって察するの、少しは上手くなったんですよ」
 恭也の頬を、その指でつつく。
 その表情は、どこか切ない。
「……いつか話しましたよね、私たちの体の事」
 言葉が消える。
 この場には…どんな言葉も適切ではないからだ。
「この事を知った人は…みんな態度を変えました。気持ち悪がる人、怖がる人、いたましいと慰める人。誰も、前と同じでは居てくれなかったんです」
 ひどく寂しそうに語る。
 その表情を形作る思いは、蓄積された悲しみの記憶か。
 彼女たちの秘密を知って、変わらずに居られる人間がどれほど居るだろうか。
 しかし恭也は見てきた。
「ティアナ嬢のように、スバル嬢と変わらず付き合える人間も居るだろう」
「私が会えたのは恭也さんくらいですよ?」
 それだけでどれほど救われたかと、憂いの色の瞳を見せる。

「えいっ」
 言葉に迷った恭也をギンガは無理やり引き寄せて膝枕する。いや、膝枕というよりも――下腹部に耳を押し当てる格好になっていた。
「聞こえますか?」
 とくん、とくんという…彼女の心音にまぎれて、ほんの少し雑音が聞こえる。身じろぎした音だろうか。
「動いている。…生きている音が、する」
「はい。守らなくちゃいけないものが、また増えるんです」
 日に日に育つ、命という証がそこにある。
「私はこの子には、恭也さんみたいに育ってほしいんです」
「自他ともに認めるこの変人王にか?」
「そこじゃなくて! …誰も差別しない、真っ直ぐに相手を見る事の出来る人になってほしいんです」
 自分を救ってくれたようにと。
「真っ直ぐに相手を見るのは、君のほうだと思うがね」
 話すとき、じっと目を見て話す。真正面から相手を見るその視線が好ましいと語る。
「そういう意味じゃないんですけど。わざと言っていますね」
「もちろん」
 くすり、と微笑で流す。
「俺としてはこの子には君に似てほしい」
「可愛げの無い子になっちゃいますよ?」
「そんな事は無いさ。君は奇麗だし、可愛らしい」
 臆面も無く言い切る恭也に、流石の彼女も朱を散らす。

「…スバルとお父さんが話しているのを聞きました」
「君は今休職中だろう。そういうのは拙いんじゃないのか」
「はぐらかさないでください」
 その言葉に彼は身を起こし、同じ目線で彼女に向き合う。真っ直ぐに彼女の目を見て、嘘偽りが無い事を証明するかのように、心底彼らしくなく真っ直ぐな言葉を紡ぐ。
「はぐらかす積もりは無い。しかし君は妊娠中で、俺は落ちこぼれの三流以下の魔導師だ」
 淡々と羅列される事実に、さしものギンガも気を荒げてしまう。
「恭也さん!」
「だから、俺は自分にやれる事をする。君が待ち望んでいるその子が生まれて、育てる日々を得るために。一緒に生きて、一緒に年をとって、そして……いつか振り返った時、優しい気持ちを得られるように」
 そう、この男は守るべきものを守る、その意志だけは曲げない。
 守るために戦う御神流の剣士として、父の背中を追った子として、ただただ高町恭也として、生まれてくる子とその母になる女性を守るために、その意志だけは曲げない。
「安心してくれ。どんな相手でも真っ向勝負などせずに、最高のタイミングで横合いからぶん殴って、逃げ切って、もう一度ぶん殴って――あいつらの考えてる事なんて何もかもご破算にしてやるさ……君が笑って暮らせるように」
 頬に手を添え、いつの間にか涙を流していた彼女のそれを指で拭い去る。慈しむように。
「だから君は笑っていてくれればいい。俺も、スバル嬢も、お義父さんも、そのためになら頑張れるし、此処に必ず戻ってこれるからな」

 言い終わり、時計を確認すればもう日付が変わる時刻。恭也は明日の激務を考え、同時に彼女の体調を考え、手を差し出す。
 彼女の手を引き、ベッドに寝せる。
 大きくなりつつある下腹部からの負担、下腹部への負担を考えて彼女は横向きに寝る。こういった時重宝するのが抱き枕なのだが、彼女はその役目を恭也に求めた。

 彼女は妹と同じように、その体にある秘密を抱えていた。仲の良かった友人も、恋心を抱いた相手も、それを知ると態度を変えたり、離れていってしまった。
 だから……それを聞いても『そうか』とだけ言って、何も変わらなかった一人の男に、安らぎを感じ……鳥が疲れた羽を休めるように、恭也という止まり木を選んだのは、自然な事だったかもしれない。
 始まりは恋でなかったかもしれない。
 けれど生まれた愛は深く、強く、何者にも断ち難いものであった。
 だから。
「愛してます、恭也さん」
 ぎゅっと、その手を握って――抱きしめた。



 その頃、恋人の居ない自分を慰めるように毛布を抱きしめて、その端っこを噛んで、涙を流しながら噛み締めているスバルが居たが――それを慰める人間は居なかった。



あとがき
 実はスバル編と重複するし、レギュラーではないので書くつもりが無かったんですが、つい17話のストレスをぶつけたら簡単に書きあがってしまいました。
 時系列的にはスバル編の翌日ですね、だからエリオが被害にあってます。

 もとの世界の自動人形や夜の一族といい、こちらでのヴォルケンリッターといい、どうやら恭也の差別意識が極めて低いようです。むしろ無いと言っていいかもしれません。こういう人間で無いと、ナカジマ姉妹を支えるのは難しいでしょう。
 ちなみにやはり――スバル編と似た未来が待ってます、ケジメとして白覆面の攻撃を食らう未来が。


恭也のバイク
 スバルが乗るので、急遽サイドカーを増設させた。緊急出動の時の足にもなるので、傷も修理跡も多い。
 不破による遠隔操作が可能で、ライダーバイクのように自動で動く姿が不気味と好評。傷だらけの姿と自動操縦により、ご近所で『事故死したライダーを探して彷徨う幽霊バイク』の怪談を作り出した。
 現在、遠隔操縦装置は取り外されている。

無限書庫の学芸員
 中世以前の奴隷階級並みの重労働。
 給料は高いが、中々家に帰れないため、離婚率・破局率が高いらしい。

ビール
 美味い物専門の下戸を名乗る恭也。
 ドイツ製のは本場だけあって日本のと違って混ぜものが無い分、純粋に美味いビールが出来上がる。

白覆面
 機動六課の職員よりも多いが、某108部隊の男性隊員を合わせるとほぼ同数らしい。
 …感染済み?
posted by TRASH BOX at 23:10| Comment(25) | 三次創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 わぁいギン姉お嫁さんがきたぁぁって、すでに仕込み済みかいwwまぁ良い奥さんゲットできてよかったね。
 それにしてもミニスカドレスのエリオかぁとっても似合ってそうですねww教会も本格的にになっちゃって、もうカリム達もすっかり同好の徒ですな
 次回の更新も楽しみにしております
Posted by パッサッジョ at 2007年07月26日 23:30
ギンガいいですねギンガ。
昨日と今日でStSの1話〜11話まで見たんですが、なのはたちより年下なのに驚いた。

さりげに17話?のネタバレがあったような・・・?
ネタバレを嘆くべきか早い仕事を喜ぶべきか。
とりあえず喜びます。
Posted by ああああ at 2007年07月26日 23:30
ギン姉…。
ダメだ…泣けてくる。

どんな事になっても死なないで欲しいです。
Posted by filler at 2007年07月26日 23:31
誤字報告です
×「スバルがそう思う鳴らそうかもね」
○「スバルがそう思うならそうかもね」
以上です。
それにしてもスバルがかわいそうだw
Posted by ハリー at 2007年07月26日 23:33
ちょ、シグナム空気嫁ーーーーーーーー!!!
そしてギン姉、爆弾発言北ーーーーーーーーーー!!!

待望のギン姉編ですね。お待ちしておりました、さとやし師父。
なんだかスバルがティアナ嬢よりも不幸に見えてきたw
それと、エリオがナチュラルに不幸で吹いた。
Posted by ソル=ブラッサム at 2007年07月26日 23:41
これは際どいネタバレ(汗
あと、スバルはガードウイングではなくフロントアタッカーでは?ちなみにガードウイングはエリオ。
Posted by ショウ at 2007年07月26日 23:45
まさか妊娠後が来るとは思いませんでした...

よく考えてみたら、出来ちゃってる三次は数多くあるけど、実際にお腹大きくなってるのはギンガさんが初めてじゃないでしょうか

次回作はまだ見ぬサブキャラか、もしくは前奏編か
楽しみにしております
頑張ってください
Posted by ひより at 2007年07月26日 23:48
一体此処はどんなヘル!?←機動6課


実は17話、今から見るのですが、随所で賛否両論の様子で楽しみやら怖いやら……


それはさておき。


夫の恭也はおろか、NARシグナムでさえ余裕となると、ギン姉ある意味最強では?ww

前奏編が一番気になる人となりましたね。


という訳で、次回更新も楽しみにしてます。
Posted by 厨年 at 2007年07月26日 23:52
Yahoo!
ギン姉編、ついに来ましたよ。
しかも、既に御懐妊済みだし、相変わらず手が速いなぁ恭也さんは。
そしてシグナム。もうね、あの空気詠み人知らずっぷりが逆に気持ち良い。
中の人も含めて大好きさ

さぁこれで残るのは元提督の未亡人だけですね?
前奏も含めていつでも楽しみにしています。

ちなみに教会の方達も大歓迎ですZe
Posted by kiriji at 2007年07月27日 00:06
そこまで辿り着いたか紫。
そこを回避むしろカウンターをかけるギンガさん、さすが対変人エキスパートはだてじゃない。
つまりは六課皆変人…
そんな中でも最後は思いも語られていて、ギャグとほのぼの両方楽しませていただきました。
……エリオはそっとしといてあげよう。
Posted by 冬姫 at 2007年07月27日 00:08
ギンガ来たぁ。
あいや、幸せになって欲しいです。
Posted by a,cline at 2007年07月27日 00:09
うむ、良いお話でした
・・・Sts見れてない人間には、一部不明なんですけどw

恭也は差別意識が低いと言うよりも、その生まれや生い立ちのため
自身も見た目などはともかく、他人からは特異に見られる事を
理解しているからこそ気にしない様な気がします

と言うか、特異点だらけだしwww
Posted by R at 2007年07月27日 00:31
なのはstsDVD1の2話を見て、昔のギン姉も
可愛かったと哀愁に浸っている自分が居ます。
言いたい事は一つ、オレンジ、ギン姉を帰せぇぇ!!

と謂う状態が幾らかはこの作品のお蔭で
落着きました、有難う御座いました。

後、次こそリンディ編?

其れでは、我等がギンガ姉さんが
無事帰還することを祈って。
Posted by hou at 2007年07月27日 00:58
シグナムが進化?している!?
Posted by ty at 2007年07月27日 01:58
とりあえずギンガ編が出たので満足です。
姉妹丼万歳!
Posted by 水城 at 2007年07月27日 02:03
身体の秘密とかSTSみてないので解からない部分は多少ありましたがそれを除いても大変面白かったです。

しかし恭也この話でも嫁公認の姉妹丼かぁぁーーーー!!!!!!
羨ましいぞ!!(マテ
後、スバル嬢大丈夫だ。子供さえできてしまえば恭也は優しくしてくれるはずだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・子供には・・・・・。

敵さんはもう少し早く計画実行してたらまだ成功の可能性があったのに・・・・。
こやつに護りたい者ができたってことはある意味S級魔道士敵に回すより厄介ですからねぇ(苦笑
Posted by J at 2007年07月27日 02:25
さすが地球の特異点の海鳴で主人公属性を持つ恭也、どんな人間でもどんと来い!って感じですね。

とりあえず白覆面'Sと紫、自重しろ。

さて次は〜奥様は少年?エリオ編、ですね(ぇ
Posted by surt at 2007年07月27日 09:10
いやいや次は、奥様は魔女?姉妹編でしょう。
Posted by マクシーム at 2007年07月27日 10:01
いやいや次は奥様は妖精?リインU編でしょう♪
Posted by 神楽朱雨 at 2007年07月27日 11:47
いやいや、次は恐らく奥さまは獣、アルフ編でしょう。


それにしてもなんだこの流れwww
Posted by ソル=ブラッサム at 2007年07月27日 12:26
 17話、と言うか15話くらいまでをまだ見れて無い人ごめん。
 ついやってしまいました、軽いけどネタバレ含んでました。最初に書いておくべきでしたね。

>パッサッジョさん
 夜天の主さえも跳ね除ける、最強の奥様です。
 現在聖王教会も順調に汚染中。騎士カリムは騎士はやてと会う事が多かったですから……

>ああああさん
 翌朝にはもう書き上げてた人も居るくらいですから、大丈夫だろと思ったんですが、まだ早かったようですね。
 そういえばスバルの二歳年上って事は……やっぱり若妻じゃなくて幼な妻に分類されるのか?!

>fillerさん
 泣くな、きっと都築さんが何とかしてくれる……

>ハリーさん 2007年07月26日 23:33
 誤字報告感謝です。
 かわいそうだけど、実は結構役得あるんですよ。恭也の夜パワー独り占めとか。

>ソル=ブラッサムさん
 不幸のレベルは似たり寄ったり、要はタイミング次第です。
 オチ要員ザフィーラからエリオに代わってきてるかもしれませんね…

>ショウさん
 ああっ、素で間違えた!
 きわどい…か。ネタバレになってるなら、申し訳ない……

>ひよりさん
 こう、毎晩、耳を当てて『おっきくなった』『今蹴りましたよ』とかやるんですよ、きっと。
 残ってるキャラで、書けるほど露出の多いのはアルフとキャロとリンディ……けどアルフとキャロはお相手固定されてますよ?

>厨年さん
 一体此処は、こんなヘルです。
 17話、賛否両論激しいだけの事はありますよ。これからの展開から目を離せなくなること間違いなしです。
 でもギン姉の前奏編て、ナカジマ姉妹関係のネタバレの塊になりそうなんですが……。

>kirijiさん
 多分、手を出すまでが長い分、一回手を出してしまえば電光石火でしょう。
 未亡人属性持ってないんで、本気で難しいです。

>冬姫さん
 たどり着きました、紫は。
 フィニッシュブローが強力だった分、カウンターの切れも凄かったでしょう、色々と。
 ちなみに精神的にはギンガ>六課です。

>a,clineさん
 はい、幸せに成ってほしいものです。

>Rさん
 見てない方でしたか、申し訳ない。ネタバレ注意の表記をしておくか、それを回避しておくべきでした。
 理解しているからこそ、差別意識が持ち上がらないと言うことでしょうね。
 人外吸引体質で、魔法がらみの世界で生きた人間の人生経験を舐めちゃいけませんよ。

>houさん
 昔可愛く、今綺麗。代われ恭也と言いたい気分です。
 17話見たから書いたんですよねー、これ。

>tyさん
 はい、まだ成長期から成熟期に進化したくらいですが、進化してます。
 これからシグナムのノンエアは完全体を経て究極体へと進化するのですよ?

>水城さん
 姉妹丼万歳?!

>Jさん
 ああっ、ここにもネタバレに引っかかってしまった人が! 本当に申し訳ない!!
 公認の理由は、夜の一族に付き合えるレベルの下半身を誇る恭也の意識が他に向かないように、同じ悩みを抱えている妹を宛がった、見たいな感じで。無論スバルの意思は尊重してますが。

>surtさん
 少年は無理っ!! というか意味がおかしい!! 意図は分かりますが。

>マクシームさん
 姉妹…美由希となのは、じゃないですよね?!

>神楽朱雨さん
 何処からどう見ても犯罪ですよ?!

>ソル=ブラッサムさん
 そんな事になったらアルフが雷神様に……!!


 オムニバスとはいえ、この『奥さ魔』書くのが私のスタンスになりつつあるようで怖い。
 前奏はやっぱり本編全部書いてから着手するべきだったかなぁ?
 『奥さ魔』のリンディ編、ほんと、書いてくれる人いないかなぁ……ちょこちょこ書いてはいるんだけどね?

Posted by さとやし at 2007年07月27日 13:44
誤字報告
×:スバルは家の中に自分の見方が居ないことを知らずに済んで
○:スバルは家の中に自分の味方が居ないことを知らずに済んで

報告終了

それにしてもシグナムの空気の読めなさは天下一品ですねw
次回作も楽しみに待ってます。
Posted by プロト at 2007年07月27日 22:03
いやいや、大穴で奥さまはマッド、シャーリー編
か奥さまは騎士、カリム編
Posted by ktkr at 2007年07月27日 22:19
ミニスカウェディングエリオに触発されて―――

奥様は魔法使い(♂)ていうのは流石にないですか(爆)
Posted by nono at 2007年07月28日 08:21
はじめまして〜
奥様は魔女面白すぎです!!
ギン姉懐妊してるのか・・・・スバル編で何気に最後の方で
スバル共々子供作ってたがギン姉編でははじめから懐妊想像できなかったっす。
次回作頑張ってください。
希望を言っちゃえばカリムやシャッハ編ってのを見てみたいかもです。(気ニシナイデクダサイ)
Posted by CVK-792 at 2007年07月28日 20:30
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