2007年07月30日

青年と少女の休日お祭り?編 by kagura

 カランコロン、カランコロン
 今日の為に買った下駄が乾いた音を立てる
 でも、それに誰も気付かない
 普段なら、目立つ音
 特別なら、目立たない音

「ふぅ――」

 人、多いな……
 溜息を一つ吐いて、待ち合わせ場所のいつかのベンチに座り込む
 ――私が、想いを伝えた場所
 ――告白した場所…になるのかな?
 どうかな……公園の入り口付近のベンチでのんびりと、待ち人を待つ
 私の待ち人。…本当なら、なのは達。
 でも、違う。今日は――少しだけ、特別な日だから。
 だから、違う――待ち人は、一番大好きな人。
 トクン…と、優しくココロが鳴る
 彼を想うと、いつも優しく、穏やかにココロが謳う
 黒の生地に朝顔の刺繍のされた浴衣の上から、右手がココロに触れる。
 トクン、トクン……眼を閉じる、それだけで、幸せな気分になれる

「ふふっ…」

 待ち合わせまで後20分ほど
 座ったベンチは、私一人には随分と大きい
 だから少しだけイタズラを―――ゴメンナサイ、ね?
 手に握った金の宝飾具を少しだけ強く…握り直す

「バルディッシュ?」『yes,sir』

 簡単な結界をベンチの周りに張る
 基本中の基本、特に問題無く発動――効果は一つ
 ただ……

「来てくれますか?」

 人除け
 ただ、それだけの結界
 しかも弱い――意志の強い人
 この場合なら

「私に逢いに…」

 “フェイト”に逢う意思があれば、誰でもこのベンチに座れるという事
 ……簡単な、本当に簡単な“幸せの魔法”

「はぁ…」

 トクン、トクン
 沢山の人が私の前を通り過ぎていく
 誰も私に気付かない
 誰も“このベンチ”に気付かない

「私はここに居ますよ?」

 ふふっ

「見つけて下さい。私を―――」

 待ち合わせの時間まで後10分
 遠く瞬く星と流れる人の波を眺めながら、少しだけ、怖い
 こんなイタズラ、ダメかな?
 ―――まぁ、でも、しょうがないではないか

「……ここに居ますよ、」

 “特別な人”に“特別な日”だからこそ見つけてほしいと想う
 それは、

「恭也さん」

 夏の熱の所為
 人波の熱気の所為
 この――祭りの“暑さ”の所為
 “特別な人にだけ見つけてほしい”と――“特別な日だから”、想ったのだ







 お祭りと言うのは人が多い
 なのはやはやて達が好きなのが良く判る――数えるのも億劫なほどの人達と夜の闇を染め上げる外灯の輝き。夜なのに昼間と思えるほどの熱気
 ――みんな、お祭り好きだもんね。すずかもこういうのは好きだと言ってたし。
 雰囲気を楽しむ…だったかな?
 うん、言われた時はピンと来なかったが、確かに楽しい――うん
 ベンチに腰掛けて宙ぶらりんの足をブラブラ揺らして夜天の星を眺める――きれい……
 地を染め上げる人工の輝きとは違う、優しくて冷たい――本当に“綺麗”な輝き
 ふと、思い出す
 いつもそうだ――夜の空を見上げていると、ふと…偶に思い出す
 “あの人”と出逢えた夜は、曇っていたな――と
 真逆。身を切るような寒さの夜の出逢い。“恭也さん”を“別人”と捉えていた夜―――
 あの夜の出逢いがあったから………か
 もし、あの夜に出逢わなかったら?もし、私があの人を“別人”としてではなく“高町恭也”として捉えていたら?
 ――――ふふっ
 どうなったのかな?
 …………早く、逢いたいな。
 来ないかな?
 時間は数分の遅刻――でも、結構いつもの事だから、良いか

「もう……」

 また急な仕事かな?それとも、まだ仕事が終わってないか……後者かな
 もしくは来てる途中か
 携帯に連絡がないので、キャンセル――ではないと思うけど…
 ――遠いって、大変ですね
 文字通り、

「はぁ―――」

 夜の空に向けて、左手を伸ばす
 …この場所と、あの星ほどに離れてるんですもんね……
 遠い、なぁ……

「―――ん?」

 ふと、周囲が少しざわついている事に気付いた
 えっと――おどり…踊り?
 お祭り会場のアナウンスが、微かに耳に届く
 ……こう人数が多いんだから、もっと音量を上げれば良いのに
 それとも、会場からこの場所が遠すぎるのかな?

「凄い……」

 確かにここは公園の入り口付近だから、屋台は少ない
 大体が公園の中央――海辺に沿った位置で店を出している
 だから、この場所は人気がそう多くない――とは思っていたが
 一気に居なくなっちゃった
 それが正直な感想

「そんなに踊りたいのかな?」

 確か、祭りの醍醐味は屋台と射的とくじ引きに踊り……って言ってたっけ?
 あ、あと花火か…以前なのはが見せてくれた魔法の花火は綺麗だったなぁ……
 お祭りの花火もアレくらい綺麗なのかな?
 …まぁ、でも……

「来ない……」

 私の待ち人がこないので、参加できないんですけど、ね
 恭也さん?10分の遅刻ですよ?







 そして

「スマン――また遅刻した…」「良いですよ、気にしてません」

 本当ですよ?ふふっ…
 だから、そんなに申し訳無さそうな声を出さないで下さい
 …貴方が、ここに来てくれただけで嬉しいんですから……ね?
 ベンチに座った私に、本当に申し訳なく頭を下げてる大きなウサギの仮面を被った青年に手を伸ばす
 近い、なぁ……伸ばした手が、届くほどに近くに居るこの人を、本当に大切だと思う
 先程の“ここ”と“星”ではない。
 手を伸ばせば届く場所に居るこの人が――本当に、嬉しい
 何時も逢えないから、逢うと余計にそう感じる
 この祭りの会場の熱気の中にある、確かな“暖かさ”が、本当に嬉しい――

「この“特別な日”に逢えただけでも、凄い事じゃないですか」「むぅ……」

 もう、本当に変なところで頑固なんですから…

「取り合えず、座りませんか?」「む――そう、だな」

 はい
 ゆっくりと私の隣に腰を下ろすのを待って

「どうしたんですか、そのお面?」「ん?ああ、変装用だ」「変装……」

 ……ああ

「そう、ですね…もう会われましたか?」「いや、来ているとは聞いてるからな」

 そうですか…
 そう言えば、そうでしたね

「似合ってるだろう?」「ぇ―――ふふっ、そうですね」

 ええ

「良く似合ってますよ」「――そこまで言われると、それはそれで悲しいものがあるな」

 はい?えっと……なにか変なこと言いましたか?

「可愛いですよ?」「それは良い歳した男への褒め言葉ではないな」

 そうでしょうか?
 デフォルメされた白いウサギのお面を見ながら…

「格好良い…とは、ちょっと……」「いや、無理して褒め言葉を探さなくても良いからな?」

 そ、そうですか?――えと

「綺麗?」「いや、それこそ的外れもいい所だ…」「ですよね…」

 お面を被った男の人に「綺麗」はないだろ、「綺麗」は
 はぁ……そうだ

「面白い?」「うむ、それくらいが妥当だろう」

 そうですか?

「やっぱり、可愛いは……」「却下だ」

 ぁぅ

「可愛いのに…」「それはなのは達に言ってやってくれ…」「そうですか?」

 あ

「そう言えば、恭也さんは浴衣じゃないんですね」「ん?――ああ」
「お祭りは浴衣だーって、はやてが言ってましたけど…」「まぁ、これも一応は浴衣……ではないな」

 えっと…確か

「さ、……さ?」「さむえ、だ」

 へぇ…

「そちらも涼しそうですね」「だろう?」

 少し申し訳ないですが、その袖を少し摘んでみる
 あ、生地も薄いんですね…

「嬢の浴衣も良く似合っている」「ありがとうございます」

 ふふっ

「恭也さんも作務衣、良く似合ってます」「俺は古き良き日本人だからな」

 そうですか?

「あ、」

 そうですね

「どうかしたか?」「い、いえ…」

 確かに、と思う……ふふっ

「和服を着て、刀を振るって、地を駆ける――サムライという人ですね、恭也さんは」「む……」

 どうかしましたか?
 本当に、判りやすい人……照れてます?

「少し、お祭りを見て回りませんか?」「そうだな――待たせてしまった侘びに、何か奢ろう」

 別に気にしなくて良いのに…相変わらず義理堅いですね
 あ、

「ふふっ」「―――?どうかしたか?」「いえ…」

 なるほど…

「どうした?」「少し思い出してしまいまして…」

 アレは確か、シグナムだったな…何か小説を読んでいて

「シグナムの言う通りだな、と」「???」「恭也さんの事を“サムライ”だ、と言っていましたから」
「ヤロウ…」「小説に出てくる主人公が、恭也さんみたいな人らしいですよ?」

 剣の達人で、いつもはのんびりしてるけど決める所は決める――といった内容を説明すると

「そこまで格好良くもないし、目立たないと思うがな…」「そうですね」「いや、否定しとこう。そこは」

 そうですか?―――でも、そうでしょう?

「それくらいのほうが、のんびり出来ますから…でしょう?」「むぅ……」

 ふふっ

「面倒臭がり屋さん」「褒め言葉と取っておこう」「はい」

 褒め言葉ですよ?貴方に対してだけの……

「それでは、」「ああ、出遅れてしまったが案内しよう」

 よろしくお願いしますね?
 先に立ち上がった恭也さんが左手を差し出してきたので、それに私の右手を重ねる
 ―――ふふっ

「そんなに祭りが楽しみか?」「え――?」「いや、嬉しそうだからな」

 そうですか?

「はい、楽しみですよ?そう言うことに、しておきます」「???」

 お面の下で、貴方の顔が疑問に染まるのが判ります
 意地悪をしてゴメンナサイ
 でも、恥ずかしくてこんな事言えません…だから、許してください

「行きましょうか?」「だな――晩御飯は?」「いえ、まだですけど?」「む――そうか」

 握った手に、力が篭る
 行こう――と、恭也さんの意思が、伝わる

 ………そういえば、当たり前に、なりましたね

 握った手に、力を込める
 行きましょう、と意思を籠めて
 そして叶うならば、私のこの喜びが少しでも伝わるように…

「まずは食べ物屋を流すか」「はい、お任せします」

 ………いつの間にか、手を繋ぐのが、当たり前になっていますね
 いつか、一緒に居るのが当たり前になるんでしょうか?
 それとも、離れて暮らすのが当たり前になるんでしょうか?
 でも、どんな形の未来でも不安は欠片もない

「しかし、人が少ないな…どっかに集まってるのか?」「あ、はい――先程、踊りがどうとか…放送が」
「なるほどな…なら、今のうちに腹ごしらえをするか」「そう、ですね…」

 この繋いだ手が当たり前なら、それだけで十分です
 それだけで、

「踊りは好きですか?」「苦手だ…というか、人ごみがあまり好きじゃない」「ふふっ、恭也さんらしいです」
「む……」「なのは達は多分そっちの方ですね…少し、顔見せをしておきます?」「遠慮しておこう」

 そうですか?

「藪を突付いて蛇を出す事もない」「???」

 はい?

「自分から危険に飛び込むこともない、と言うことだ」「えっと……」

 危険って、なのは達……じゃないですね
 確かに――“皆”集まってるなら、“なのはのお兄さん”も居ますよね…はぁ、私の馬鹿

「そうですね…」「そう気に病むな…なに、些細な事だ」

 そんな事、ないですよ…
 若干増え始めた人波の中を、手を繋いで歩く

「嬢は繊細すぎるな」「はい?」

 えっと……

「もう少し無茶をしてみるのも良いかもな?」「はあ……」

 どう言うことでしょうか?

「ワガママも言わない、良い子だな…フェイト嬢は」「あ、ありがとうございます…」

 ぁぅ
 握った右手が、痛いほどに熱く感じる
 ドクンドクンと、耳元でココロが鳴く

「だが」「―――?」「もう少し、ワガママを言え」「は、はあ…」

 ワガママ、ですか?
 わわっ

「もう少し、傍に寄っておけ」「は、はい…」

 うぅ、人が多い…まともに歩くのも難しいです……
 なに笑ってるんですか?お面で顔を隠していても判りますよ?はぁ…

「嬢は小さいな」「気にしてるんですから、声に出して言わないで下さい…」

 まったく

「まだまだだな」「なにがですか?もう……」「そう怒るな」「ぁぅ……」

 だからって、握った手に力を込めないで下さい…うぅ……卑怯者め

「では、出店を冷やかして回るとするか」「はい」

 よろしくお願いします、恭也さん
 私もまた、今より少しだけ握った手に力を込める
 それだけで、幸せな気分になれる
 ううん―――“幸せになれる”







 ふぅ……

「そろそろなんだが…人が退かないな」「はい?」

 なにがですか?
 人の多さに圧倒されながらも3分の2ほどの出店を回った時

「花火だ。そろそろの時間のはずなんだが…人が退かないと動きにくい」「確かに…」

 こう多いと、動き辛いですよね…

「そう言えば、花火は何処で上がるんですか?確か、地面に設置して打ち上げるんですよね?」「ん?」

 えっと、間違えてました?

「ああ、花火か。海鳴のは少し特別でな――海の上から船に設置して打ち上げるんだ」「へぇ――」

 海―――
 視線を、屋台を挟んだ暗闇の海に向ける…

「海に面した待ちならではの花火祭りだな――嬢は初めてか?」「い、いえ――去年に一度」

 その時は、なのは達と回りました……

「あの時は人込みに流されないので精一杯でしたので……」「――――くくくっ――確かに、な」

 もぅ

「わ、笑わないで下さい…初めてだったんですから」「それは悪かったな…ああ、スマン」

 気持ちが篭ってません――もう

「そう怒るな」「怒ってませんっ」

 そう言って買ってもらったりんご飴を一齧り――甘くて、少しだけすっぱい
 うん、美味しい――

「女の子だなぁ…」「はい?」

 何がですか?

「甘いもので機嫌が良くなる所が、だ」「む―――あ、いえ、怒ってないですし?」
「…そう言うことにしておこう」

 そうしてください…はぁ

「そうやってると」「今度はなんですか?」「そう警戒するな」「ふん……」

 知りませんっ

「む…嫌われたな」「な――――ひ、卑怯ですよ」「なにがだ?」

 あ、凄い楽しそうですね……はぁ

「スマンスマン」「別に、怒ってないですし警戒もしてません」「そう言うな……」

 それに―――嫌いになんて、なりません。もう…卑怯者
 そんな事を言われたら…私はどうしたら良いか判らなくなるじゃないですか…
 残っていたりんご飴を一齧り。うん、美味しい……

「そう怒るな…」「怒ってません」「そうだな――ほら、クレープも売ってるぞ?」

 知りませんっ
 もう、私がそう甘いものばかりで―――いえ、怒ってないですし

「む―――」

 はい?

「どうかしましたか?」「あ、いやな…」

 いきなり止まらないで下さい――時間?
 腕時計をしきりに気にしながら…どうしたんですか?

「そろそろ時間だな――行くぞ?」「え?あ――」

 わわっ
 いきなり引っ張られて、持っていたりんご飴の棒を落としてしまう

「ご、ゴミ落としましたっ」「気にしない気にしない」「あ、ちょ――恭也さん?」

 どうしたんですか、いきなり…もぅ
 握られた手を引っ張られながら、ボンヤリとそんな事を思う
 別に、嫌じゃないんですよ?
 手を引かれながら歩くのは、嫌いじゃありませんから
 特に貴方なら――です







 辿り着いたのは、人気の少ない公園の外れの位置
 窮屈そうだったウサギのお面を外し、夜風で髪を梳く恭也さんを見上げながら
 横目で眼前の闇の海を見る―――海が見えるから

「ここから花火が見えるんですか?」「ああ、穴場と言うヤツだ」

 そう言って、本当に――本当に歳不相応な、子供のように笑う恭也さん
 むぅ……いきなり、そんな顔をしないでほしい
 トクントクン、トクントクン――
 少しはこの人の笑顔に動揺しない耐性が出来たと思っていたけど、まだまだだったようで
 うぅ――少しだけ、ココロが速く鳴る

「どうやら“こちら”のなのはは知らないようだな」「え―――?」

 “こちら”って

「元の世界のなのはには教えたんだが――ふむ、やはりそれなりに違うものだな」「えっと」

 その…

「それは“恭也さんの世界”の…?」「ん?ああ――だが、他の人も結構居るようだし穴場とは言えんな」

 そう言って苦笑する
 ――確かに、結構人が多い

「外灯も少ないですし、虫が少なくて助かりますね」「ふむ――そう言う見方もあるな」「はい…」

 ふふっ
 でも、座る所が無いですね―――って

「芝生の上だと、ゴミがつきますよ?」「む――あ、そうか」

 そうかって…もう

「いくら夜でも、こう明るいと目立ちますよ?」「いや、俺は構わんが…「構って下さい」…はい」

 もう

「少し待っててくれ」「はい?あ――ちょ、恭也さん?」

 こ、こんな暗い所に置いて行かないで下さいよ……はぁ
 まぁ、真っ暗――って、訳ではないですけど…
 と

パン―――

 乾いた音が、空に響いた
 そして、闇が白に染まる

「わ――――」

 ただただ、綺麗だと――――そうとしか、思えなかった
 夜空を染めるその七色の輝きを――その…人を笑顔にする事のみに特化した“魔法”のような景色の中で

「きれい――――」

 私は、空を見上げる事しか出来ないで居る
 しょうがないではないか――こんなにも、綺麗な世界を見たのは久し振りなのだから

パン、パン――

 連発
 綺麗な大輪の花が、二つ咲く
 紅と蒼、緑と黄――様々な色が、夜空を染め上げる

「どうだ、良い眺めだろう?」「―――はい」

 凄く、綺麗です。不意に戻ってきた恭也さんに驚く暇も勿体無い
 声にはならず、唇だけが動く
 声を出す事すら、罪だと思えるほどに――そう思えるほどに、綺麗だった
 ただただ、本当に――綺麗だったのだ
 トクントクン、ココロが少しだけ早く鳴る
 見惚れる――そう称するのが、一番妥当
 私は、“花火”に見惚れている

「ビニールシートを借りてきたが、座るか?」「あ、いえ――良いです」「そのようだな」

 なんですか、もう…何だかその言い方が本当に嬉しそうだったので眼を向けると

「楽しんでいただけて良かった良かった」「ええ――ありがとうございます」

 ただ、笑っている“彼”が居た
 本当に嬉しそうに、幸せそうに、楽しそうに――感情で溢れた笑顔
 いつもの仮面じゃない。“本当の笑顔”

「ぁ―――――」「どうかしたか?」「―――――ぃぇ」

 首を横に振る
 本当に、どうもしていない。
 ただ―――

「綺麗だな、と」「そうか」

 そしてまた、本当に嬉しそうに――子供が笑う

パン―――

 乾いた音で、虫の声が消される
 白く染まった闇の中で、その明かりを頼りに恭也さんに並ぶ
 二人して、並んで夜の空を見上げる――満天の星と綺麗な花火と、欠けた月
 その“綺麗な世界”の中で――もっと、綺麗なものを見つけてしまった。

「ここからだと丁度良い角度で花火が見えてな――」「――はい、綺麗です」

 子供のように“昔”を語るこの人が、本当に綺麗に見えて――

「二人だけの秘密の場所だな?」「え?ぁ―――ふふっ、そうですね」

 トクン、トクン
 嬉しそうに笑う恭也さんの横顔と、夜空に咲く桜花を交互に見ながら――
――自然と、どちらからでもなく、その手を握る。
 暖かい……
 本当に、そう感じられた
 祭りの熱でも、夏の熱でもない――人の温かさ

パン―――

 トクン、トクン
 ココロが、緩やかに、優しく――穏やかな唄を奏でる
 この手の繋がりが、何故か――本当に何故か、世界で一番大切なんだと…思った。
 何故そんな事を思ったのか、それが何故こんなにも嬉しいのか判らない。
 笑みが浮かぶのが自分でも判る。
 ただ花火を見て、大好きな人と手を繋いでるだけなのに――こんなにも、幸せで良いのだろうか?

「どうかしたか?」「いえ――恭也さんこそ、どうかしましたか?」

 どうしてそんなに嬉しそうなんですか?どうして―――そんなに、幸せそうなんですか?
 ふふっ――
 一瞬だけ重なった視線を、空に戻す

「きれい――」「だな」

 はい
 繋いだ手に、力を込める
 嬉しくて嬉しくて、嬉しすぎて――何故こんなにも幸せなのか判らないままに、ただ“繋がり”を求める
 変だ。本当に、変だ。
 だって―――

「綺麗だな――」「ですね」

 ほら、珍しく恭也さんからも強く強く力を込めてくる
 いつもはこんなに強く握ってくれないのに――こんな、痛いくらいに……
 ふふっ、ふふふふっ……本当に、楽しい。嬉しい

パン――

 力が、緩む
 私も緩める――そして

「今日は祭り――“特別な日”だからな」「はい、その通りです…ね」

 “手を握る”のではなく“指を絡める”
 この繋がりが解けないように、もう二度と“迷子”にならないように――

「また来たいですね…」「来年まで生きてられたらな」「もぅ……」

 デリカシーが無いなぁ…

「生きてますよ、絶対」「言い切るのか…」「はい」

 指を絡めた手を軽く持ち上げ

「この“温もり”が貴方を死なせません――」「――ふむ」

 そしてまた、嬉しそうに笑い

「確かに、ご利益はありそうだな」

 はい――凄いですよ?

「ふふふっ――そう簡単には死なせませんよ?」「……なんか怖いな」「ぅ――そ、そうですか?」
「そこはヘコむ所か…」「うぅ…」

パン―パン――パン―――

 わ……

「すごい――」「――――――」

 花火の音で、声が届かなかった
 ただ…繋がった手が、伝えてくれた
 ――死なない、と
 ギュ――――と、力を籠められた右手に伝わる“暖かさ”と“意思”
 それだけで、私は
 トクン
 優しい唄が心に届く
 私のココロじゃない――恭也さんのココロが奏でる優しい唄

「ありがとう」「ありがとうございます」

 果たしてその“意思”で救われたのは“私”か“彼”か――“両方”か

パン――

 ただただ、夜空に咲く大輪の桜花が綺麗で美しく輝きながら、映してくれる

「頑張らないと、な」「はい――御互いに」

 本当に幸せそうに笑う、私の一番“特別な人”の最高の笑顔を
posted by TRASH BOX at 23:14| Comment(21) | 三次創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 始めまして、ROM専だった紅蓮蒼穹と申します。
 久方ぶり?のkagura氏による恭×フェイの番外編をを読ませていただき、……甘〜〜い!! とおもわず叫んでしまいたくなる甘さが毎度のこと素晴らしいです。
 今回のお祭?編はやはり夏を意識して書かれたのでしょうか?とても甘酸っぱい初々しい雰囲気も良かったです。
 P.S. 外伝の二連休?編の続きも気になる所です。これからも頑張って下さい。
Posted by 紅蓮蒼穹 at 2007年07月30日 23:52
恭フェイが久々に来たwww
刺すがっと違った流石はkagura師父w
やっぱりこう何て言うのかな?
癒されましたよ、ふわふわしててGJですw

今後の作品も期待してますね
Posted by 無童 at 2007年07月30日 23:57
久しぶりに悶えさせて頂きました。
ごっつぁんです!!!
Posted by こそあどの森 at 2007年07月31日 00:15
今回は夏祭りということもあってか、なんか二人の距離が今までより確実に縮まってますね。
夏の魔力で海水浴イベントないかなぁ、とらハ仕様だと傷跡有りだし、駄目か。

そういえば隅田川の花火大会がありましたね………翌朝のニュースで気付いたけど。花火大会なんていつ行ったの最後だっけ?…書いてて鬱になる。
Posted by 濁みーん at 2007年07月31日 00:16
久々の恭フェイですね。
『ゆったりとした、けれど甘いおはなし』
そんなかんじ。またシリーズ最初から読み直そうかとも思いました。

手を握るではなく指を絡めるって、すでに恭也陥落済み?
意識してないとフェイトの年齢忘れそうですw
Posted by 冬姫 at 2007年07月31日 00:19
お疲れ様です。
久しぶりの恭×フェイでしたねw

世間は既に夏休み。各地で花火も行われています。
このssのように、初々しく甘酸っぱい一時を過ごす恋人達もいることでしょう。

久しぶりに和ませていただきました。
また、和ませてくれるような作品をお待ちしています。

Posted by 神楽朱雨 at 2007年07月31日 00:26
久しぶりに恭×フェイ分充電〜〜
作務衣の恭也と浴衣のフェイト…(想像してみる)…素敵だ…いや、決してセルロイドのライダーお面をかぶってる恭也を想像したりはしてませんよ(ぉ

作中恭也も言ってるようにフェイト嬢はもうちとわがままでもいいとは思いますよ。
は!も、もしかしてこれは暗に「もっと積極的に俺を籠絡してくれ」と言っているのか?(爆

しかし、なにやら背景が黒くなったおかげで、時々フェイトの「ふふっ」って笑いが黒く見えたのは秘密です(ぉ
Posted by MK2 at 2007年07月31日 00:29
こ、幸福の海で溺死してしまう!

いやー大きな少女シリーズのように肉食獣の狩のような話もいいですが、こう、静かに逢瀬を重ねる話もまたおつですな。
Posted by surt at 2007年07月31日 00:34
久しぶりにkagura師父の恭フェイがきた。
と言うか、何気に恭也がヴォーパルバニーになってるし! 次回は出来れば、二連休の続きを見たいなと思います。がんばってくださいね。
Posted by サントス at 2007年07月31日 00:34
幸せっていいものだなぁ

今年のお祭りは一人で行きました。

花火は綺麗で屋台の食べ物は相変わらずでした。

ハハハハ、この瞳から流れているのは心の汗さ。
Posted by ウェルディ at 2007年07月31日 01:01
>子供が笑う
恭也の止まっていた時間が動いてる感じがします
年相応ではないけど、「置き去りにしてしまった子供の恭也」の時間が…
Posted by S!To at 2007年07月31日 01:01
とりあえず冒頭の「人除けの結界を張りつつ恭也を待つフェイト」だけでお腹いっぱいになりましたwGJです、kagura師父。

なんというか、読んでるだけで幸せな気持ちになれる作品っていうのはあまりないかと。
これからも期待しています!
Posted by ソル=ブラッサム at 2007年07月31日 01:17
夏祭りの恭也とフェイト・・・癒されます。

指を絡めるということは既に意識している?!

幸せな情景が浮かんできます。次も楽しみにしています。
Posted by taiju at 2007年07月31日 02:13
人除けの結界を抜けてくる(多分存在そのものに気づいてないのだろうなぁ)、
手をつなぐのは当たり前(しかも言葉なしで意思疎通)、
さらっと元の世界のことを話す、
子供のように笑う、
それらの描写が恭也がフェイトに心をゆるしているのがよく分かり
読んでいて幸せな気持ちになれました。

次回も楽しみにしてます。
Posted by アティ at 2007年07月31日 03:15
あぁ、冒頭だけは見せてもらってましたが改めて・・・・・・・・・・・甘酸っぺぇええぇぇーーーーーー!!!

冒頭の正に“私を見つけてください”なフェイト嬢とそしてそれをあっさり実現してしまう恭也。
その後のほとんど手を繋ぎっぱなしの二人にはニヤニヤが止まりませんw
きっとこの光景をなのは達以外のクラスメイトとかが見つけて夏休み前なら翌日辺り夏休み中なら登校日ないし新学期にフェイト嬢は質問攻めにあいそうですね。
まぁ、きっといるはずのフェイト嬢に淡い気持ちを抱いてた男子とかは崩れ落ちてる事でしょうが(苦笑

恭×フェイ本編で恭也の居場所になれないと嘆いていましたが前の世界の事を語り子供のように笑うまでに彼の居場所になれたフェイト嬢に乾杯!
Posted by J at 2007年07月31日 04:33
うん、時間的に休日編の少々先になるのかな?

恭也が攻勢(反撃)?の出始めかな?

もう、何か確実にフェイト(の年齢)待ちな感じですな。
時が来たらそのまま…
…っと、行かないのが六課クオリティか?
その前にクリオとキャロの問題があるか?
さて、次回は何が起きるやら…
Posted by 月 at 2007年07月31日 12:31

間違えた。
『エリオ』と入力したつもりが『クリオ』になってた。
…携帯故の間違いか?
確認は必要だな… orz
Posted by 月 at 2007年07月31日 12:35
甘い! それでいてしつこくなく、寧ろ程よくさっぱりほんのりして……って、俺は何の感想を?(ホントにな
夏祭りと言う“特別な日”なせいか、二人ともいつもより何だか“柔らかい”感じがしますね。自分の心に素直と言うか、枷が外れたと言うか。何にせよ乙女なフェイトと子供な恭也が見られて満足です!
>優しい唄が心に届く 末永く続いて欲しいものです。つまりは「Sweet Songs Forever」と。……狙いましたかkagura師父?ww

それでは次回もまた楽しみにしております。では(礼
Posted by 三上刻夜 at 2007年07月31日 13:27
 久々の恭×フェイ堪能しました。本当師父の書かれるお二人は最高ですね。癒されますよ。
Posted by パッサッジョ at 2007年07月31日 20:04
お初ですー
恭×フェイ分補充完了しましたwこの絶妙な距離感の二人が大好きです!このあと二人に「めぐりかえる」みたいな展開があったりするとものごっつい悲劇なんですが−−;
そんなことない二人をもっと書いてください!次回も楽しみに待っております
Posted by 遠野河童 at 2007年08月01日 06:33
さて、八月入りしたので恭×フェイ月間です(違

>紅蓮蒼穹さん
初コメありがとうございますw
折角の夏&番外編なのでこんなのを書いてみちゃったりw
連休変はもう少し待ってくださいね?
恭也の好感度不足です(マテ

>無童さん
書いてる私も癒されたw
先月は…思い出すのも怖い暴走月間だった…orz

>こそあどの森さん
おそまつさまですw

>濁みーんさん
久し振りに書いたから距離感が曖昧ですw
多分、先月のと比べると少し文章に違和感があるかも?
私は毎年一回以上は祭りに行きますねw
祭り大好き人間なんでw

>冬姫さん
はじめましてw
読み直しちゃ駄目ですよぅ(照
最近フェイトの精神年齢が異常に高い現実w

>神楽朱雨さん
凄い久し振りに恭×フェイ書いたorz
一ヶ月ぶり?
……来月はまた、変な月間に入るのかなぁ(不安

>MK2さん
誰か作務衣恭也の絵描いてくれないかなぁ…
浴衣フェイトは多分他のイラストサイトに上がるだろうねw

そんな黒くないよっ<ふふっ笑いw

>surtさん
溺死してしまえw
なんだ肉食獣って――誰の事だい?(ニヤソ

>サントスさん
最初はライダーだったけど、アレかなーと言うことでウサギ。
選択肢が二つしかない所が恭也らしいね(ホロリ
連休編は少し凍結w
恭也の好感度不足です(マテ

>ウェルディさん
そうッ、それはココロの汗っ!!
私も今年“も”一人だぜ!!(ブワッ

>S!Toさん
少しずつ――じゃないかもしれないけど、恭也がフェイトにココロを許していく過程を書いていきたいです(ぉ

>ソル=ブラッサムさん
満足していただけたようで、嬉しい限りですw

>taijuさん
意識しているというか、それが当たり前になりつつある現状…
小学生でこれなら、中学生だとどうなる事やら(マテ

>アティさん
ああ、気付いてないね
恭也に魔法の素養は無いからねw
無意識に最良の結果を導き出せるのが恭也だろうなぁ…w

>Jさん
一応、世間にあわせて夏休み中の一幕ですw
学校内のことも書いて見たいなぁw

>月さん
連休編前ですw
色々と連休編用のフリを作っておこうかとw
良く言えば恭也の好感度不足(違

>三上刻夜さん
突発的にネタを振られて書いたんですが、気に入ってもらえた用で何よりw

>パッサッジョさん
癒されてーw

>遠野河童さん
お初ですよーw
なんでか「めぐりかえる」が恭×フェイの延長線という図式が成り立っている今日この頃orz
違うんですよ?まぁ、StS編かその後にそのルートは潰しますが(マテ
Posted by kagura at 2007年08月01日 23:59
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