2007年07月30日

祝福の風の吹く日 by さとやし

 異変は、ある日突然に訪れる。



1>朝の風景・管理局側

 ざわっ。
 機動六課はいつもどおり、驚愕の喧騒に包まれた。
 そう、例え慣れたとしても驚かずにはいられないのがこの部署だ。

「り、リィンさんが……」
「六課最後の癒し系、キャロたんと双璧をなすリィンフォースII空曹長が……!」
「馬鹿なっ!! これでは何で六課なんかに転属してきたと言うのだ!!」
「でもこれはこれでいいかも」
「ちょっと待てお前ら」
 言葉で言うよりも先に手が出ていた。
 具体的には『鉄の伯爵』によるフルスイング。いい加減『非殺傷設定』も便利すぎる、手加減と言う意思が欠けてゆくのだから。
「あ、これはヴィータ副隊長、どうされましたか」
「難なく立ち上がるなゾンビか貴様ら」
「いえ、ただの慣れです」
 血の一滴も流さずに、難なく立ち上がる局員たち。これで文官だと言うのだから、平時に彼らに課されている訓練の異常さが判るというものだ。
「……」
 最近の訓練担当が誰であったのかを思い出す。黒い兄と白い妹。その圧倒的な火力の援護を受けて急襲する刀使い。その戦闘性能は無印ブレイクエイジにおける九郎とベンケイの如し。
 トラウマすら負った様子のない――もしくは克服しただろう――局員を前に、ヴィータは戦慄した。もうすぐ訪れる配属換えの時期に、こいつらが管理局内にばら撒かれる事実に気づいて。
「我々に聞きたいことがあったのではないですか?」
「……これは何の騒ぎだ」
 諦めて頭の中を切り替えるのにかかった時間も一瞬、人は慣れる生き物なのだ。
「そうです、ヴィータ副隊長ならご存知でしょう!!」
 グンと詰め寄る局員たち。
 血走った目は、ヴォルケンリッターとして管理局の魔導師として戦い続けた彼女を怯ませるに足るものである。
「リィンフォースII空曹長…彼女にいったい何があったのですか!」
「リィン? リィンに何かあったってのか?」
「いえ、それを我々も聞きたいのです。あちらを見てください……!!」
 食堂の一画でシグナムと差し向かいで朝食をとっている美女が一人。そのビジュアルに、一つの記憶が呼び戻される。そして、彼女の腰に挿された『不破』と『参式』にその正体を教えられる。
「リィン、フォース…!」
「ですから、先ほどからそう言っているではないですかヴィータ副隊長……? 副隊ちょぶはぁっ?!」
 リィンフォースの名を呼び、放心しているヴィータの様子に――局員も何かあるのかと察するが、突然の衝撃に吹き飛ばされる。
 発生源は、その美女。彼女は一瞥をくれると無表情に語った。
「すまないが茶の席を楽しんでいるところだ、静かにしてくれ」
 朱に交われば赤くなる、黒に交われば恭也になるの格言の通り、容赦と手加減を忘れた一撃が局員を見舞った。



 グラーフアイゼンを待機モードに戻し、シグナムとリィンフォースのいるテーブルに着く。そこには懐かしい友人に会えたような、僅かな照れくささを交えていた。
「久しぶり、と言っとくか」
「いや、久しぶりとは言えないでしょう? 毎日といっていいほど会っているだから」
「その姿では、久しぶりだな」
「……そうですね」
 言いかえると、彼女もそう思ったのだろう。少し懐かしさを滲ませた。
「…どうしたシグナム」
「いや、リィンフォースの話し方に違和感を感じてな。いつもと違うのはなぜかと思ったからな」
「『私』は『リィンフォース』なのだから『いつもの私』と違うのは仕方ない」
 暗に『今此処にいるのは不破ではない』と言っている。
「で、なんでその格好なんだ。というかその姿になれたのか」
 その姿――黒い服に身を包んだ、わずかな時間しか存在しなかったヴォルケンリッターの一人――祝福の風の姿に。
「『参式』の…強化された演算能力の恩恵だろう。シグナムの力を借りれれば実体化程度は容易いようだ。記憶と人格…私を構成する最も重要なものは初めからここにあった。それだけだ」
 しかし所詮、質量と実体を持つホログラム程度のものだと自嘲する。かつての『夜天の魔道書』管制プログラムとしての機能と能力を取り戻すにはまだまだ足りないと。
「この『不破』じゃ無理なのか?」
「この姿で日常生活をしたなら主はやてでも辛いだろう。それにカートリッジをいくつ使う羽目になるか。中心となるリンカーコアの生成が出来ないのが致命的だな」
 くすくすと笑いながら『できるが、やれない』、そう彼女は語る。

「まあ、主の新婚旅行に私が着いていくような野暮を働くわけにはいくまい」
「はやてのこと、まだ『主』って呼ぶんだな」
「私が『主』と呼ぶのは今代の主であるはやて一人だけだ。恭也は…敢えて言うなら『相棒』だな」
 そこには誇りがある。
 あの決別の日、ほんの僅かな心残りが残した、今の自分が存在すると言う奇跡。それ以来10年間、常に共に戦い続けてきた自負がある。そこにあるのは依存ではなく信頼と信用。足りない力を互いに補い続けてきたと言う思いだ。
「なーシグナム」
「言いたいことはわかる、のろけるな、だな」
 二人のジト目に不破はうろたえる事無く…
「10年も前の事だというのに、まだ羨ましいと思っているのか」
 やれやれと首を振るその仕草、それとも言葉にか、シグナムとヴィータがそれぞれデバイスを起動させる。
 が。
「やりあう積もりならば受けてたとう。しかしこの場を『私』に任せた主とリィンの判断に難癖をつけるつもりがあればな」
「む」
「うぐ」
 さすがにもっとも長い時間を恭也と共に過ごしただけの事はある。これだけで二人を止めてしまうのだから。


「あの冷たい目をしたリィンさんも素敵じゃね?」
「いやポイントはシグナムさん並みの形の良さを誇るあの胸だろ」
「…あの目で蔑まれながらこう魔法で打ち据えられると…快感?」
 折り重なったまま談義できる、六課平局員の生命力は恐ろしいものである。
 だが視線はもう一人の女性へと移る。
「しっかしよ、ヴィータ副隊長、最近子供の姿になってくれねえな」
「高町第三分隊長だろ、あの人に見て欲しいらしいぜ」
「うわー、上司のだんなに略奪愛しかけるなんて。ナマ修羅場ってやつか」
 ひどい誤解だ、はやてとヴォルケンリッターの間には強固な関係が築かれている。感情の揺らぎ程度では決して揺らぐことの無い主と騎士という絆だ。
 具体的にははやてが上で、ヴォルケンリッターが下だ。
「だったらシグナム副隊長は? 前に子供になってたことあったろ。シャマル先生共々ヤツを狙ってるって噂もあったしよ」
「ゴスロリってた時な」
「噂は噂に過ぎんと言うことか」
「休日は存分にお洒落を楽しんでるらしぞ? 先週ブティックで見たし」
「何故貴様が女性服の売り場でシグナム副隊長を見た?」
「……」
「まさか貴様、われらの血の掟を破り彼女を作ったとでも言うのか? ……デートか、デートなのか?!」
 そして始まる、流血を伴った漢の魂のぶつかりあいが――そうだ、忘れてはならない。彼らが管理局にばら撒かれる『人事異動』の季節がさほど遠くないことを。



2>朝の風景・八神家側

 八神恭也は致命的な敗北を喫した。今の彼が高町ではなく『八神』であるのがその証拠だ。
 その彼も『妻』であるはやてを伴い今は機上の人。そう、今朝から二人はハネムーンに旅立ったのだ! 局員の一部が憤死寸前で病院に担ぎ込まれるほどの……あまりにも多種多様の悲喜交々と(女性)問題を残したまま。

 彼女にあるのは不屈の闘志。
「り、リィンは、リィンははやてちゃんと、約束した、ですよ…」
 指先一本動かすのすら辛いはずであるのに、ベッドから転び出て、床の上を這いながら外へと、約束を果たすために――
「はいはい、風邪引きさんはちゃんと寝てようねー」
 ひょい、と持ち上がられた。
「しゃまるさん、リィンは、約束を……」
「大丈夫ですから、安心してくださいね」
 リィンの専用のベッドに寝かしつけて布団をかける。その動きには淀みがなく、この脱走劇が複数回繰り返されていることを意味している。
「でも、ろっかのへいわを、まもると、はやてちゃんとやくそく、したですよ…」
「守るのが『平和を守る六課』じゃなくて『六課の平和』と言うのが言いえて妙ですね」
 寝かしつけたリィンに吸熱シートを――
「ホイホイみたいですねー」
「使い方の改善を要求するですっ!」
 唐突に跳ね起き、はうっ、と言って再び倒れる。
『み(だいじょうぶですか?)』
 猫の鳴き声。
 振り返ればドアの隙間から顔をのぞかせる虎縞の子猫がいた。ザフィーラが娘と公言する愛猫、虎丸である。
「虎丸ちゃん、お見舞いに来てくれたですか…」
『みぃ(もちろんですとも、リィンさん)』
 言葉は通じていないのだが、それでもなんとなくニュアンスは伝わるのだろう。リィンが少し嬉しそうに笑うと、ドアの隙間に首を入れ、何かを引きずって部屋の中に持ち込む。
『みぃ、みみぃ(これでも食べて元気を出してください)』
「フリードぉぉぉ?!」
「今日も負けたですかぁぁぁ?」
 口に獲物を加えていたが、その獲物――小型のドラゴン――にはリィンもシャマルも見覚えがあった。いつもキャロが連れているフリードである。気を失ってボロボロではあるが。

 フリード――その名は管理局のみならずミッドチルダ全域に存在する『使い魔』達のネットワークに広まっている。いわく『最強を目指す求道者』『バハムートをも超える』『Gと戦い生き残った』と。彼の道場破りならぬ『使い魔破り』の記録は既に百を超え、その身には風格が漂い、最強生物『竜』の名に相応しい力を宿している。
 しかし竜はその巨体と、身に宿す力を見ればわかるように『魔法の力』抜きでは生存すら難しい生物である。特に真の姿は、重力下では自重で自壊しかねない巨体だ。だからこそ先天的に『魔法破戒体質』を保持する虎丸とは決定的に相性が悪い。
 ただ純粋に爪と牙、本能によって構築される戦術、戦うものとしての純粋さ、それで敗北を続けているのだ、この飼いならされたドラゴンは。

「…ここまで聞こえていたぞ」
「女の子の話は聞いても聞かない振りするものですよ。…それに貴方は何をしているの?」
 濡らしたタオルと洗面器をテーブルに置きながら、彼女が見るとザフィーラは人の姿でなにやら作業していた。空中にいくつものウィンドウを投影し、何かのプログラムをしていたようだ。
 彼女が覗くと其処には変身魔法の術式と効果、その結果の姿――いつも局員から受けの悪い『犬耳』と『尻尾』が無くなったザフィーラの姿が描かれている。
 ……その中の一つに、ちびアルフとつりあいの取れそうな『ちびザッフィー』があるが、その横には『没』の一文字が。これをやったら間違いなく六課で戦争が起こると予測したのだろう。
 犬耳ショタなぞ許せるものかと、叫び狂乱する男どもの姿が鮮明に目に浮かぶ。
「変身魔法の研究…?」
「ああ、これは何のデータだったか思い出せないから出しただけだ。俺が探しているのは別件でな、虎丸の様子がおかしいから……ああ、これか」
 様子がおかしいと言う以前に、あれは本当に猫なのかと言う疑問が発生している。そうツッコミたいのに突っ込めないシャマルがいる。
「ネコマタ、というのか」
「……は?」
「いや最近、いつの間にか虎丸の尾が二本に増えていてな。ふむ、本来は数十年生きた猫がなるのか。生後二ヶ月足らずでなるのはすごい事なのかもしれんな」
 何かまずいことが起きている。
 シャマルは思った。
 だが言い出せない。
「しかし日本語と言うのは読みにくい。当時の俺はいつも犬の姿だったから会話はともかく読み書きはさっぱりで……すまんがシャマル、読んでくれるか」
「……はい」
 反転した投影型のウインドウ。視線で文字を追う彼女の顔に冷や汗が流れ始める。
 1分2分が過ぎ――猫又と化け猫の違いを理解すると、深い深いため息をつく。虎丸が猫又でありますようにと。
「大丈夫ですザフィーラ、あなたが愛情を注げば虎丸ちゃんも立派に成長するはずですもの」
 これ以上この危険な会話を続けたくない。
 シャマルですら冷や汗、いや脂汗を流すほどの気配が扉の向こうから漂ってくる。そう、曇りガラスの向こう側に、細くて長い、二本の尾を幻視した――

「そういえば何故リィンが熱を出したのだ? 我々にはその様な事、早々に起きるはずは無いが…?」
「……リィンも、女の子なんですよ。興味くらい持つ年頃です」
「?」
「あの子も管理局で犯罪対策に携わる身、色々な知識を持っていても、経験が無いから興味を持ったらそのままで……」
 恍惚となって身もだえするシャマルに、目眩さえ覚える。
「オイ?」
 追求することは(精神的に)死を迎えるかもしれない。しかし確認しなければならないのだ。
「昨夜、はやてちゃんと恭也さんの所に潜り込んだそうです。具体的にははやてちゃんとユニゾンしたとかしないとか」
「突っ込みどころが多すぎるわ! いやそれ以前に主は止めなかったのか?!」
「実地研修、だそうです」
「……最後の砦は……もはや、崩れた後だったか…」
 ザフィーラの呟きは、世界に消えてゆくのだった……。



3>六課はやはり六課

 道端で、制服を着た女性が木の枝でアリの巣をつついて壊している。薄ら寒い、壊れた笑みを浮かべて。誰もが遠巻きに見つつ、同時にティアナに熱い視線を向ける。
 お前は不幸体質だから慣れているだろう、それとなく聞き出して何とかしてくれ、と。
「あ、あのー、シャーリーさん? 何かあったのでしょうか?」
 意を決して話しかける。
 毎晩毎晩、暴走しかけるスバルを叩きのめす苦労――まだ清い体でいたいのだ、彼女は――に比べれば、楽なものだと割り切って。
「うふ、うふ、うふふふふふふふふふふふふふ……」
 壊れてますよ? そんな視線を回りに投げ返す。
 今度はジェスチュア。四角い何かに、上方斜め45度からのチョップ、だろうか。
 軽く、のつもりだったはずだ。しかしその壊れた笑みがもたらす恐怖に負けたのだ、ティアナは。

 数分後……気絶から目覚めたシャーリーは、ポツポツと話し始めた。
「ティアナさん……わたしの場合は自業自得と言えなくもありません。ですがあなたは不幸体質です」
「喧嘩売ってるんですか、シャーリーさん。買いますよ? 日常的になのはさんの特訓を受けているこの私の実力を示してあげますよ?」
「いえですからそういう積もりは全く無いです。今日はその『不…リィンフォースさんには近づかないでください、間違いなく巻き込まれますから」
「…? 何それ、忠告のつもりなんですか?」
 ティアナは、シャーリーがいつも『リィン』と呼んでいる少女を『リィンフォースさん』と呼んでいる事に気づけなかった。しかしすぐさま巻き込まれるので気づけずとも全く問題は無いのだが。
「そう、よ……気をつけてね」
 それだけ言うと、シャーリーはふらふらと立ち上がり、ゆらゆらと揺らめきながら歩いていく。今が夜ならまさにホラーだろう雰囲気を放ちながら。
 そのとき、六課を揺るがす爆発が起こった。
 覚えの無い魔力の質を感じた彼らは、シャーリーの『ああ、やっぱりなのね…』と人生に疲れきったような声を聞くことは出来なかった。

 美しく、空を舞う。彼女は鳥になったのだ。
 もっとも着地は無様に過ぎた。
 地面に叩きつけられながら、縦に横に回転し、やがて見物客を巻き込みながら生きていることが不思議なくらい――基本的に六課職員は不死身だが――に、ぼろぼろになって漸く止まった。
 煙が上がっているのは摩擦熱だろうか。
「生きてるみたいね、スバル。……何やったの?」
「私がやったの確定?」
「違うの?」
「……違わない」
 はぁぁと吐かれた溜め息に、誰もがまたかとうなだれる。
「で、何をしたの」
「ティア、今日、リィン見た?」
 先ほどのシャーリーの壊れ具合と言い、今のスバルといい、何らかの形で今日の災いはリィンフォースがらみで間違いないと判断する。間違ってはいないのだが、災いを避けるのには多少不足している事にまだ気づけていない。
「いやぁ、いきなり大きくなってグラマー美人になってるものだからさ、ついスキンシップを」
 ちゃきり。
 まさに六課のフォワードチームの一人であると誰もを納得させる速度でクロスミラージュが構えられていた。スバルの目前に構えるティアの目は……死ナス目だった。
「具体的には?」
「こう、胸を」
 タコもかくやと動き回る指と、腕の動きによるそのポジショニング。
 AVだってそこまでしないぞ。外野からそんな声が聞こえたので、ティアナはその辺りに何発かクロスミラージュを撃ち込む。無論カートリッジも使って。

 食堂のほうから聞こえるキャロの泣き声と、彼女を支えて歩いていくエリオの姿を視界に捉えたとき、スバルは桃色の光の追撃に、再び空を舞うのだった。

「空に吹き飛ばされる事で衝撃を逃がすなんて、スバル……逃げるのが上手くなったね」「それは誤解ですよなのはさん?!」
 背後に控える八神はやての手元にはリミッター解除の術式が浮き上がり、なのははエクシードモードとなったレイジングハートを構えている。スバルの叫びの内容通り全くの勘違いなのだが、今の彼女達にとってはそれが真理となっている。
「なのはなさん?! もうツッコミどころ多すぎて何が何だかわからないんですけど、何があったのか教えてください!!」
 ギラリと視線が向けられる。
 かつて悪魔、そして今魔王と呼ばれる彼女の、その証ともいえる鋭き眼光だ。
「ティアが気にすることじゃないよ。スバルが極刑に値する邪悪な行為を働いただけだから」
 そうね、と同意する声と、同時に聞こえる電子合成音。
『Zamber form』
「プラズマ・ザンバァーーッ!!」
 なのはによる浮き上がりから、フェイトへと繋がる空中コンボ。
 いつの間にバリアジャケットを纏ったのか、しかしそれでも地面に張り付いているスバルが居る。

 とてとてと、大きく迂回しながら食堂の裂け目にいるヴィータのところに逃げ、詳細を聞くことにした。
「何、やらかしたんですか」
 と。
 返る言葉は端的だった。
「キャロの作った弁当、スバルがぶつかってこぼしちまったんだ」
 なるほど、とティアナは納得する。
 恋に仕事に勉強に、精一杯頑張るキャロの姿は六課の至宝である。これは全会一致で採択された真実である。そのキャロがエリオと一緒に食べるために作り、勇気を持って誘ったというのに、ぶつかってこぼした。
 食堂にいる面々の――ここ最近の激務で溜まっているだろうストレスの量を鑑みれば――攻撃を受けてもおかしくは無いと。
「それにしてもあいつ、防御魔法の腕上げたな」
「あの子空気読めませんからね…たぶん六課で一番」
「それじゃシグナム以下だぜ? そんなならもっと普段から吹っ飛んでるだろ」
「読める事と回避できるかは別問題だと思います」

 二度、三度と宙を舞うスバルを見て誰もが思う。
 防御力に優れたガードウイングに育つはずだと。



4>真相究明

 事の原因となったスバルを、ティアナは手馴れた事に悲しさを感じつつ手早くミノムシに。落ち込んでいるキャロをエリオに任せ、フェイトはそれとなくフォローに回る。崩れ落ちた外壁は、はやてが居ないのでなのはが修理責任者になった。
 ……そうして残る面々はようやく一つのテーブルに着く。

「ええと…『不破』さんが『リィンフォース・アイン』さん、なんですか?」
 アイン、そしてツヴァイ。
 リィンフォースIIは小人のような姿をしているから、一目見ただけで人間とは異なるという認識がされる。誰かの使い魔ではないかと思われることが多いが、ユニゾンデバイスであることはその機密性からあまり知られていない。
 ゆえに彼女が何者であるのかも、ティアナには今のところ分からなかった。
「前に一度死んだとき、記憶と人格を別の場所に格納してな、それ以来は『不破』と名乗る事にしている」
「…はぁ…なんだか凄いですね」
「そのまま十年もの間死んだ振りし続けていたがな」
「生きている事が分かったなら、お前たちはどうした? 言えるわけが無いだろう」
 恨みがましい目で見るシグナムの視線もなんのその、さらりと受け流す。流石に恭也の相棒を十年し続けた事はある。
「だが、この事が秘匿事項である事は忘れるな」
 下手に口外しよう物なら――と、その視線に込められる物が何であるのか、誰もが理解を放棄する。

「あれ? でも『不破』はストレージって…不破さんが居るのにですか?」
「管理局の公式見解では私は消滅した事になっている。だから、存在しないデータがAIとして搭載されているはずも無い。アームドではなくストレージなのは、登録したのが恭也だからだ」
「ああ、納得しました」
 恭也だからの一言で、謎は全て解けたと言わんばかりに拍手を打つ。
「コアチップがストレージのものだからな、ストレージデバイスと誤解したのだろう」
「じゃあインテリジェントデバイス…」
 魔導師が用いる意志を持つデバイスをインテリジェントデバイスというが……
「古代と近代、AIの搭載・非搭載を問わずに武装型のベルカ式デバイスである以上は、アームドデバイスに区分される。『不破』は人格を有するAI搭載型のアームドデバイスに過ぎない」
「そう言えばそうでしたよね…」
 相棒である――最近、その事実に少し悔やんでいる――スバルのマッハキャリバーも人格型AIを持つアームドデバイスである事を思い出して、気まずそうに頬をかく。

「まあ、いい」
 話を切り上げるように言葉を切る。
「シグナム、ヴィータ、そしてティアナ。リィンフォースIIが主はやてより命じられ、私が代役を勤める任務に付き合ってもらえるか?」
 視線には『闇の書』そして『夜天の魔道書』の管制プログラム、いや、ヴォルケンリッターの統括者としての威厳がある。
 そしてその言葉に……
「それが主からのものであれば、断る理由は無い」
「アタシもだ」
 二人の断る理由は無い。
 そして、巻き込まれる形になった彼女だけがおずおずと手を挙げながら。
「…私で役に立つならお手伝いします」
 そう言わざるを得なかった。
「そうか。ありがとう三人とも。そして内容は単純、ただ『六課の平和を守る』だけだ」
 普段恭也がするように、不破と八景を腰に差す。
「?」
 三人が眉根をひそめる。その何処に、自分たちが介入する余地があるのかと。
「言い換えよう」
 その言葉はどこか、六課最大の変人がシリアスモードに移行した時に似ていた。
「変人達の駆除をする」
 ざわり。
 その瞬間、不破の向けた視線の先から、シグナムにもヴィータにもティアナにも感じる事の出来なかった気配が突然膨れ上がる。無駄にハイスペックな隠行をこなしていたのは六課の職員だったが、悉くその覆面も含めて衣装は白かった。
 シグナムはレヴァンティンを、ヴィータはグラーフアイゼンを構える。
 そこには一瞬の遅滞も無い。
 常在戦場の心得を持つ者が至る、高みの一つか。
「戦えるのか、不破」
「私が魔力供給を行っている。心配する必要は無い」
 ヴィータの声に、シグナムが答え、不破が頷きで応える。
「私を甘く見るな。かつての力を失おうとも、この十年の間恭也と共に戦ってきた。恭也の身体機能の運用情報、戦闘理論構築の基礎、そして私に気づかずに手の内を晒していた奴等に、勝機などない」
 頼もしさと恐ろしさを1:9で感じ取ったティアナは後悔していた、何故あの時、関わったのだろうかと。
 魔導師適正Fランクの相棒では成し得ない、シグナムの力を借りた今の『不破』だからこそ出来る――
「御神流魔道式、草案の一……実験台になってもらうぞ、駆除対象者!」
 そして、バイオレンスの嵐が吹き荒れた。

 後にリィンフォースの乱と呼ばれる、六課最大の恥部が此処に勃発した――ティアナ・ランスターはこの後、事実を知る一人として様々な事件に巻き込まれる事になるが、此処では割愛するとしよう――。



 その日の夜、キャロは眠れなかった。
 昼の事件の後、エリオが突然くれた遊園地のペアチケット。それを両手で大切に抱きしめたまま、ベッドの上で毛布に包まったまま転がる。いつまでも鳴り止まない心臓の鼓動に悩まされて。
『明日は休みだからさ、一緒に行こうよ』
 照れながらそっぽを向いて、差し出された手に握られていたこのチケット。もしかしたら暖かさが残っているのではないかと、つい触れてしまう自分の指に恥ずかしさを覚えながら。
 その時の声が何度もリフレインする。
「ふふふっ。どうしようフリード、ものすっごくうれしいよぉ」
 もしもと、汚してはいけないからと、パスケースに入れてなければボロボロになってしまっていただろう。
 彼女は初めて、嬉しいからと言う理由で徹夜してしまうのだった。



あとがき
 結局はやてにつかまった恭也。式の翌日新婚旅行に旅立った二人に、六課の事を任されたリィンはとある事情で寝込みました。
 なのでピンチヒッターに、リィンフォース・アインを投入。このような騒ぎになった次第です。

 犬耳ショタのちびザッフィー。
 やったら確実に戦争が起こります。


リィンフォース・アイン
 現状においてはヴォルケンリッタークラスの魔導師が居て初めて実用レベルの『仮装ボディ』を構築できるに過ぎませんが、はやてによって独立したユニゾンデバイスとして復活させる『ダブルリィンフォース計画』が立案されています。
 またこの時点では、外見については守護騎士たちの奇行が原因でリィンフォースIIと誤解されています。
 リィンフォースV3は生まれないはずです、多分。

管理局内の人事異動
 組織の硬直を避けるため、権力の集中を防ぐため、不正の温床を作らせないため、管理局全体で行われるごく当たり前の人事異動。一年の試験運用の後、解体されるはずの機動六課――これにより六課から管理局へと出て行く人間が発生する。
 そして彼ら彼女らは優秀な人材であるが故に、重要な部署へと配置される事になるのだ!
 .Kyouya//感染拡大?

エアリーダーシステムのレベル
 ティアナ:8
 一般人:4〜6
 シグナム:3
 スバル:1
 読める事と回避できるかは別問題。
posted by TRASH BOX at 23:15| Comment(20) | 三次創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
.Kyouya//感染拡大(6課)ってことは悪性変異(恭也が)もするし侵食汚染(6課が)もするし絶対包囲(恭也による)もするのか?
さらには再誕(リインの口(攻)撃)し君想フ声(6課が恭也に)だったり歩くような速さで(恭也の人生が)進んだりするのですか?www
ちょwww俺膨らませすぎwwww

アインは相棒として恭也の風呂Timeを覗いてたりしたことが他の人にばれたら・・・
それはそれで面白いなwww
Posted by 無童 at 2007年07月30日 23:54
管理局………数年後には白い覆面が徘徊する素敵空間になってそうだな………
Posted by こそあどの森 at 2007年07月31日 00:05
ラストのエアリーダーレベルで吹いた。
ティアナ苦労してんだろうなぁ。
Posted by qwe at 2007年07月31日 00:11
やはり不幸なティアに合掌(ぉ

結局主に捕まっちゃいましたか…ってか、もしかして八神家の共有財産か?>恭也
ヴィータが戻らないのも案外…(邪笑
リィンII…なんで倒れてるのかと思ったら…思春期なんですね…(笑

それにしてもミッドガルド全域に恭也菌蔓延は恐いですな…

エアリーダーのレベルは恭也も恋愛に限っては低いのかな??もう捕まっちゃいましたがw
Posted by MK2 at 2007年07月31日 00:12
>エアリーダーシステムのレベル
> ティアナ:8
ティアナ空気読みすぎw

あとは、新婚旅行にいってるはずのはやてがちょこちょこ登場してるのは、時系列が違うから? それとも、俺の読み取りが足りないからなのか!?
Posted by 通りすがり at 2007年07月31日 00:17
腐敗はなくなるでしょうけど、組織としては致命的な何かが失われる気がする…

あとはやて、純真な子になにをやってるのかね?
ああ、もうティアナじゃないけど何処から突っ込めばいいことやらw
Posted by surt at 2007年07月31日 00:21
ブレイクエイジのベンケイとクロウ。あとガードウイングに噴いたww
Posted by みみみ at 2007年07月31日 00:49
先生!空気読んでも無視する人のことを忘れてます!
Posted by toy at 2007年07月31日 00:56
リィンUが穢れてしまったw敗因は最後の砦(はやて)が既に(恭也に)占領されていたことかw

リィンTが記憶と人格を別の場所に”最初”に格納したのって、やはりキスのときに”粘膜”経由で恭也の脳にってことですかねw
夜天の書本体と守護騎士を切り離したのは容量を削るためで、あの時の長さは書き込み時間で、恭也が気絶したのは脳に負荷がかかったからと考えると・・・全て計算済み?リィンT恐ろしい子ッ

久々に不幸なティアナ分を補給できました。ティアナはこうでなきゃと思う自分は外道でしょうか
Posted by LeeS at 2007年07月31日 00:58
あー、もうどこからつっこめばいいのかわからない…なんていうか混沌?
もし成功したとしてダブルリィンフォース誰と融合?はやてがリィン二人と?
はたまた恭也&アインの組み合わせはあるのか…
でも恭也って融合メリットあるのかな?
Posted by 冬姫 at 2007年07月31日 01:20
>黒に交われば恭也になる
カテキン噴いたwww

一日2本。お疲れ様です、さとやし師父。
六課の職員たちが……やはり機動六課にいると普通の人たちもおかしくなるのでしょうか(マテ)
Posted by ソル=ブラッサム at 2007年07月31日 01:36
本日其の2読了致しました。

しかし、地雷原で駅伝しても壊れない
一般職員(ウィルス持ち)が量産され
管理局、陸海空の部署に満遍なく
散って行く訳ですな・・・是、どんなホラー?!

後、時系列的には本日其の1の後でOK?
Posted by hou at 2007年07月31日 02:09
ティア嬢・・・・相変わらず不幸だ(涙
彼女はヒロインに格上げされるか全く出番が無いかの究極の二択でないと不幸は回避されないんですかね〜?

恭也は恭也で八神家共有財産っぽい感じでグットです。

最後のキャロの可愛らしさと純真さになんだか目から汗がこぼれていましたw
Posted by J at 2007年07月31日 04:45
ツッコミ所が多過ぎるよ、助けてポ〇イっ!?

でもラストで癒されました。本当にご馳走様ですwww



ところで、リインフォース01は 天然?確信?……両方のような気がします。
Posted by 厨年 at 2007年07月31日 07:48
えぇと、これは『奥魔女?-はやて編』の前奏と本編の間で良いのかな?

それにしても、バ○オハ○ードなんか目じゃないだろうな…
…やはり、ゾンビ(敵キャラ)に白覆面がデフォなのかな?
Posted by 月 at 2007年07月31日 10:56
 あややお相手ははやてですかぁ。でもこの後に争奪戦確定なんだろうなぁ。
 ブレイクエイジとは懐かしいですなぁ。小説版やボトルシップ含めて全部持ってるなぁ。
 時空管理局の明日とザフィーの未来も心配だなぁ。
Posted by パッサッジョ at 2007年07月31日 20:02
 感想ありがとうございます。
 やはり感想があると書くパワーが沸きますね。
 では返信行きます!


>無童さん
 最早何が起きてもおかしくない世界になりつつありますからね……膨らみますよ?

>こそあどの森さん
 徘徊なんてしませんよ、突然出現するだけで。

>qweさん
 ティアナが苦労するのは、やはり空気の読みすぎが一因だと思うんですよ。

>MK2さん
 合掌です。
 八神家はカオスです。何時の間にか唯一の良識派はザフィーラの役職になってしまいました。

>通りすがりさん
 読みすぎて空回りして巻き込まれるのです。
 はやては名前が出ているだけで、この日の朝にはハネムーンへと出発しています。

>surtさん
 大丈夫、白覆面たちの教義は『悪・即・斬』です。管理局の存在意義は何も変わらず機能していますから。
 感覚の共有だけですよ、リィンは清い体ですよ。……それでもやりすぎだよなぁ。

>みみみさん
 ブレイクエイジを理解できる人が居るんだなぁ。
 本編でヴィータも言ってたじゃないですか、ぶったたいて鍛えたと。

>toyさん
 忘れてました!

>LeeSさん
 最後の砦は恭也のほうですよ?
 ヴォルケンリッターでは暴走したはやては止められませんから、恭也に防壁の役目を望んでいたんですが……。
 何時の間にティアナは不幸がデフォ?

>冬姫さん
 まさにカオス。
 ヴォルケンリッターは自前でリンカーコア持ってましたからね、アインが持てれば恭也の魔力不足も一気に解決するはずなんですが……世界の法則が許してくれません。

>ソル=ブラッサムさん
 紫に交わればシグナム、緑に交わればシャマルも。
 感染率は90%超、発症率はほぼ100%ですから……来客も危ないですね。

>houさん
 管理局の基本性能の底上げには貢献してますよ、人格は犠牲にしてますが。
 こちらの場合ははやて編の後日ですね。

>Jさん
 ヒロインか出番無しの二択……確かにそうですね……。
 キャロこそが六課最後の良心、希望なんです!!

>厨年さん
 アインは確信犯と天然を意識せずに使い分けてます。何しろ第五のヴォルケンリッターの初代であると同時に、恭也の相棒ですから……並の神経のはずがありません。

>月さん
 はい、新婚二日目ですから前奏と本編の間の出来事ですね。
 白覆面は、人事異動に伴い感染を繰り返し管理局に無限増殖しますから……それこそディープグラウンドですよ。

>パッサッジョさん
 はやて相手に争奪戦を仕掛けられるのはフェイトしか居ません。ですので間違いなく発生します。
 此処にもブレイクエイジを知る人が……でもあの二人の戦闘パターン、似てると言えば似てますよね?
 ザッフィーの明日は、きっと迷走に次ぐ迷走に違いありません。

 ではいずれ近いうちに。
Posted by さとやし at 2007年07月31日 20:57
ブレイクエイジ懐かしや。中の人達は余り似てないが、装甲の違いとかそのまんまやね。
Posted by くろがね at 2007年07月31日 22:59
スバル頑丈だなぁ....


ますます城島さんちの娘さんに似てきて....
Posted by ひより at 2007年07月31日 23:30
D・Pはネトゲにならんかなと思う今日この頃。

そしてあの足音で歩くリインU=ホイホイさんに鼻血www
Posted by 710810 at 2007年08月02日 03:09
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